仮面の剣士

待てども待てども衝撃は僕を襲わない。恐る恐る目を開けると何者かが僕に届く前に刀でケロベロスの爪を受け止めていた。体格的にたぶん男だろう。断言できないのは仮面をかぶっていて顔がわからないからだ。


「こいつを迷い込ませたのは我々の落ち度。ここから先は任させてもらおう」


聞こえてきた声はくぐもっていてやはり性別はわからない。左肩にある星型の紋章の真ん中に漢字で「壱」と書かれている。


「稲妻流玖ノ型 御雷」


仮面の剣士は左手に持った刀で食らいつきに来ていたケロベロスの顔面を切り裂いた。鮮血が飛び散って校庭に赤いシミができる。てか、強すぎでしょ!?僕があんなに苦戦してたケロベロスをあっさり切り伏せるなんて。


「グルルルル……」


ケロベロスはようやく仮面の剣士を強敵と認めたか、僕の時にはなかった距離をとる動きをした。


「稲妻流捌ノ型 電光石火」


50メートルほどの距離を一瞬にして詰め一撃でケロベロスが吹き飛ばされる。


「ガウッ!」


ケロベロスが懲りずに仮面の剣士にとびかかる。今度は超至近距離から仮面の剣士にハイインフェルノを放つ気だ!ケロベロスは僕がインフェルノを放っても何ら気にしなかったように炎に対して高い耐性を持つみたいだ。だから跳ね返ってこようと問題はない。でも仮面の剣士は生身だ。正面から炎をくらえば軽いやけど程度じゃすまない。


「無駄だ」


仮面の剣士が左手に持った刀を一閃すると迫り来ていた炎の壁を一刀両断に切り伏せた。嘘でしょ!?非物質を剣で切り裂けるなんてそんなのありか!?スキルかなにかか!?


「勘違いしてるようだけど、俺はスキルとか魔法は苦手でね。今のは俺の単純な技術だよ」


どれだけ修練すれば炎を切れるようになるのかさっぱり想像もつかないんだけど。仮面の剣士が無造作に刀を振るっただけでケロベロスの前足の膝から下が切り落とされてバランスを保てなくなったケロベロスが地面にその巨体を地面に落とす。


「稲妻流壱ノ型 紫電一閃」


僕が操る稲妻流と同じとは思えないほどの圧倒的な速度、僕の目に留まらぬ速度で仮面の剣士の剣士の体が動いた。次の瞬間には僕の苦戦はなんだったのかと思えるほどあっさりケロベロスは死んでいた。仮面の剣士は「アイテムボックス」らしきものを開いてケロベロスの死体を収納するとポケットからスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。


「師匠、すみません。迷い込んだケロベロスは討伐しましたが色欲の方を見失いました」

『――――』

「了解」


仮面の剣士は要件を終えたのかスマホをポケットにしまうとどこかへ立ち去った。

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