いいねの数だけ140字以内で文章を書くチャレンジ
X(旧Twitter)のタグ「#いいねの数だけ140字以内で文章を書くチャレンジ」挑戦作です。
いいねの数は11でした。
1. 時間
「たいしたもんだよ、あんたのしたことは」
足を止め、高層ビルを見上げた。貧しかった島は、四十年かけて成長し、いまや最先端を行く。
これは一人の男が為したこと。だというのに。
「これで満足できないなんてな」
グラハムは溜め息を吐く。島の最大の功労者が老害になってしまった現実を憂いた。
2. 繋ぐ
「ほら」
夕暮れ刻、帰り道。差し出された男の手を見つめる。無骨なその掌は傷だらけだった。どんな人生を送ってきたのだろう。自分が生まれる前の遠い過去に思いを馳せる。
「どうした?」
促されて、手を伸ばす。小さな自分の手を包み込むその手は、優しく大きく温かい。
それだけで十分だと思った。
3. 煙草
口から吐き出される煙を見て、大人になったことを実感する。今はもう何をしても許される。
「物好きね」
連れの女の呆れ声。煙草はあまり好きではないらしい。
「いいだろ、別に」
女はやれやれと首を振る。
悪いとは思っている。でも、これは自由を手に入れた証だから。
もう少しだけ味わわせてくれ。
4. 珈琲
黒い液体に練乳を垂らす。カップの中の白い月が珈琲と混ざり合った。飲めば、甘みと苦みが口内に広がる。大人の味にはほど遠いが、子供の飲み物とはとても言えない。澪の珈琲はいつもそう。
「美味いかい」
隣で夫がいたずらっぽく見つめる。澪は笑顔で頷いた。なにより今このときが至福だったから。
5. 朝
黎明を迎える。陽の光に少女が溶けていく。
「お別れだよ」
彼女は寂しそうに微笑んだ。
悪夢を見た。化け物が蔓延る迷路を突き進む夢だった。そんな中で彼女は私の手を取って道を切り開いてくれた。
「どうか忘れないで」
少女は光の中に消えていく。
そして目覚めの時が来た。悲しく寂しい朝だった。
6. 眼鏡
兄妹揃って目が悪くなったので、眼鏡を買った。ぼやついた景色が切り取られてはっきりと見えるのがなんだか新鮮だった。
兄と顔を見合わせる。双子ゆえに同じ顔と言われた私たち。はっきりとした視界で見てみると、やっぱり違う顔だった。赤い枠と青い枠。よく見えていない奴らも、これで見分けがつくだろう。
7. レモン
皮を剥いて輪切りにする。氷砂糖と一緒に瓶に詰める。これから一週間、瓶の中でゆっくり溶けていくことだろう。かつての甘酸っぱい想い出と一緒に。
いつの間にか手作りするようになったレモネード。シロップよりも楽しみなのは、果実のほうで。残った皮の苦みを噛み締めながら、想い出に浸るのだ。
8. 思い出
あなたに出逢ってどれほどの時が流れただろう。はじめは他の人に惹かれていた。でも、あなたと一緒にいて、心の奥底を垣間見て、あなたのことがたまらなく好きになった。あなたと一緒に歩んだ日々は、苦難の連続だったけど、今はかけがえのないものとなって煌めいて。今では大切な宝物。ありがとう――
9. シナリオ
私の野望を叶えるには、どうするか。まずは、目標の綿密な分析が必要だ。それから、視野を広げて利用できるものを探す。駒が用意できたら、次の段階だ。目的を達成するためのストーリーを作り出す。駒の配置、攻略の順番。綿密に立てる必要がある。全ては我が願いのため。最高のシナリオを用意しよう。
10. 猫
路地裏を歩いていると、黒猫と遭遇した。勤め先の猫だとすぐに分かった。ジェラールは手を挙げる。
「よう、ルイ」
猫は振り向くとグリーンブルーの眼差しを向けた。そして興味なさそうにすぐに立ち去ってしまった。
「なんだよ、つれないな」
まあいつものことか、とジェラールもまた歩き出した。
11. 傘
報われない日常に耐えられなくなり、雨に構わず飛び出した。逃げ込んだ先の桜木は、花を落とし泥まみれ。まるで自分の境遇を映しているようで、哀しくなる。
「身体を壊すぞ」
桜と共に雨に打たれていると、見知らぬ人が傘を差し出してくれた。これまで向けられてこなかった優しさに、泣きたくなった。
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