第6話
ジークがいくらか歩いていると、床の感覚が変わる。
土を踏み締めたかと思うと、風景がいきなり変わった。
「何だ。ここは?」
ジークは、見知らぬ街並みに出て来てしまった。
ジークは後ろを振り向いた。
神の塔があった。
「神の塔?……と言うことは、あそこは、俺の居た村なのか?」
ジークは混乱した。なぜ、村が見知らぬところへなってしまったのか。
こちらへ老婆が歩いて来るのが見えた。
ジークはその老婆に話を訊くことにした。
「すみません」
「はい?何でしょう?」
「ここは、セック村でしょうか?」
「ああ、ここはセック町です。10年前までセック村でした。よくご存知ですね」
どう言うことだろう?セック村がセック町に。しかも10年前にセック村が町に。
ふと、老婆の首元のネックレスに目がいった。神の塔に登る直前、失くしてしまったネックレスに似ていたからだ。
「あの、そのネックレスは?」
「あぁ、これですか。これは60年前に神の塔へ登って行った兄が残した物を直して、兄が戻って来たら、気付いてもらえるようにずっと身に付けている物です」
ジークは思わず、顔を覆った。そして、気付いた。その待ち人が自分であることに。そして、神の塔の老人の忠告に。 それから、幼き時「神の塔に登れば分かる」と言った男の言葉の意味に。
神の塔と地上は時間の流れが違うのだ。
ジークが神の塔に居たのは、多分数時間。それが地上では、60年経っていた。
「あの、お婆さん?私が60年前に神の塔に登った兄だと言ったらどうします?」
「ほほほ。何をご冗談をあなたは、どう見てもお若い。とてもこの婆と近い歳にはみえませんよ。でも、確かにあなたは最後に見た兄の姿に似ています」
「じゃあ、こう言えば信じてもらえますかね。エミリー、兄の名前はジークだ」
「え、え、え?なぜ、私の名前を?それに兄の名をなぜあなたが?」
「俺がジークだからだ。エミリー」
「え、え、え、え。本当にお兄ちゃん?」
「ああ」
ジークとエミリーは抱き合った。
終わり
神の塔 浅貴るお @ruo
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