「あなたの心を離さない“ピュアな”あの子」

フランチェスカ

妖精姫の寝物語

 あなた………あなた。

 優しい、私の大好きなあなた………。

 何が優しいのかと問うのですか?

 こうしていつも、誰とも知れぬ私の言葉を聞いてくれているではありませんか。


 わたくしは誰か、ですか?やっとたずねて下さいましたね。

 その中にいます。そこ………

 あなたの開いているおとぎ話の中にいます。

 わたくしは本の中の妖精姫なのです………


 わたくしに会いたいと言って下さるのですね、嬉しいわ。

 けれどそのためにはこの本を最後まで読んで貰わなくてはいけません………。

 まあ、忙しいのに毎日寝る前に読んで下さるのですか?

 ありがとうございます、優しいあなた。

 わたくしはいつでもあなたをお待ちしています。


 こんばんは、今夜も会えて嬉しいです。

 本を開いてくださいましたね。

 こちらはとてもいい陽気です、薔薇が咲き乱れていますわ。

 あら、まあ、仕事でお疲れ?無理はしなくていいのですよ?

 こうして語り合えるだけで、わたくしはとっても幸せです。

 それでも、本を読んで下さるのですね。

 やっぱりあなたは優しいお方。


 良い夜ですね、大好きなあなた。

 わたくしがどんな容姿をしているのか知りたい、ですか?

 わたくしは銀の髪を膝まで伸ばしていて、青い瞳です。

 妖精なので、あなたにとってはとても白い肌だと思います。

 大きさ?人と変わりませんよ、あなた。

 また少し本を読んで下さいましたね、優しいお方。


 星が綺麗です、話せて嬉しいわ、あなた。

 え、今日は会社のお取引先で不幸が?お葬式だったのですか?

 お疲れ様です、とても疲れていらっしゃるでしょうね。

 え、私に家族はいるのか、ですか?

 姉が4人に両親がいます。

 明日は私の家族がどういう人達なのか聞かせて欲しい、ですか?

 わかりました、お疲れの可哀そうなあなた。


 こんばんは、きょうはこちらは雨です。

 雨の中で踊るのは大好き!あなたと一緒に踊れたらいいのに。

 全身を雨粒が打って、リズムを奏でています。

 水と雨の精霊たちも、とっても元気。

 わたくしは、川で水浴びするのも雨が降るのもどちらも好きです。


 こんばんは、今日は家族の事を話します。

 私は末娘、私と違って姉3人は皆長い金髪をしています。

 でも瞳は同じ青い目なのです。

 妖精王の父が銀髪、妖精女王の母が金髪なので、わたくしは父に似たのです。

 皆とても優しい家族です。

 今度あなたの家族の事も聞かせて下さいね。


 ああ、助けて!

 強欲な人間に捕まってしまいました。

 幸運をもたらす妖精として、お城の塔に幽閉されてしまいました。

 家族はみんな無事に逃げたので、それだけが慰めです。

 早く、本を読み終わって私を連れ出して下さい、とても怖いです。


 今夜は天窓から空をのぞいています、あなた。

 一生懸命本を読んで下さっているのですね、愛しいお方。

 昨日私が助けを求めたから、無理をさせたのですね。

 目の下にクマがあります。お願いですから寝て下さい。

 わたくしの事を考えると寝れない、ですか?

 ああ、あなたは本当に優しいあなた。


 今日は曇り、星明りもなく、部屋は真っ暗です。

 魔法で炎を生み出して暖をとっています。

 この部屋にはほとんど物がありません。

 拘束具が壁についているのがとっても怖いです。

 

 私は、騎士団に祝福を授けるように言われていやいや授けました。

 隣国と戦争だそうです。

 戦争になったらわたくしはどうなってしまうのでしょう?

 隣国が勝ったら私は殺されてしまうのでしょうか?

 怖い、とても怖いです。

 あなたが本を読んで下さっているのだけが救いです。


 今日は星明りがあって、少し安心しています。

 あなたはとてもお疲れの様子ですね。

 私の為に、そんなに根をつめてはいけませんよ、愛しいお方。

 え、本から次々ページが湧き出してきて終わらない、ですか?

 ええ、それはそうです。これは魔法の本ですから。

 大丈夫、大丈夫です。無限ではありません。

 どれぐらいかと言われても、私には分からないのですが。

 役に立てなくてごめんなさいね。


 隣国との戦争は負けです、お慕いするあなた。

 わたしは隣国のもの、という事になりました。

 ちゃんとした部屋に入れてくれたのだけが救いです

 暖炉が赤々と灯り、とても落ち着きます。

 え?いままでですか?

 明り取りの窓だけの、家具も何もない、石の部屋でした。

 いっそ本に入れたら、と言ってくれるのですね、優しいあなた。

 入る事はできますが、大冒険になってしまいます。止めておきましょう。


 今日はお湯編みできました。暖かい水なんて初めてです。

 え、あなたの住む世界ではあたりまえなのですか?すごいです。

 炎の精霊を使って水をあたためるなんて、考えた事もありませんでした。

 飲み物には氷が使われていました。

 これも、あなたのいる所では普通なのですか?凄いです。


 愛しいあなた、これ以上無理をしたら、生活に差し障ります。

 本を読む時間を短くしてくださいな。

 あなたの辛そうな様子は見ていることができません。

 わたくしを助けたいからだと百も承知ですが、あなたに健康でいて欲しいのです。

 お願い………無理をしないで優しいあなた。


 また無理をしているのですね、愛しいお方。

 今日という今日は寝て貰います。ページが進んでいるのでできるはず………

 ねんねんころりよおころりよ………

 ぼうやはよいこだ、ねんねしな………

 眠りましたね………良かった。


 この部屋からなら脱走もできそうです、愛しいあなた。

 え?あなたが助けるまで、危険を冒さないでほしい?

 本当にあなたは優しいのですね。

 分かりました、わたくしはじっと待っています。

 危険な事は致しませんから、安心なさって。


 わたくしは部屋から出られない以外不自由なく過ごしています。

 だからそんなに根を詰めないでほしいのです。

 いつ、なにがあるか分からないから、ですか?

 そうですね、ありがとうございます、優しいあなた。


 愛しいあなた………本当に何があるか分かりませんね。

 わたくしはドラゴンの生贄になることになりました。

 これでもうこうやってお話することは………え?

 

 足元が光っている?これは解放の魔法陣!?

 ああ、愛しい方!読み終わったのですね!

 本の封印が解ける!ああっ愛しいあなたがそこに―――

 助け出して下さってありがとうございます!


 これでわたくしは、このさきずっとあなただけのもの―――

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