17 複雑化する異世界転移
俺たちは聖剣ホーリーブリンガーを手に入れ、拠点の屋敷に戻った。改めて、無事に聖剣ホーリーブリンガーを入手できたことを喜び合う。
「これでメルビンの騎士団への入団が認められるんだな」
「うん。ゲーム通りならね」
「まあ、こういうのはその通りに行ってくれないと困る……」
俺は
「アマンダ」
「ん?」
メルビンがアマンダの前に立った。
「さっきはありがとう。おかげで軽症で済んだよ」
「どういたしまして。まあ、カレンも無事だったし、よくやった少年!」
「同い年だろ、子ども扱いはやめろ」
どうやら、メルビンとアマンダはすっかり打ち解けたようだ。
ロベルトとカレンも何やら話している。
「カレン、大丈夫?」
「うん、平気。メルビンが望んでいることだもの。応援してあげなきゃ……」
「その意気だ。カレンが悲しい顔をしていたら、メルビンも力入らないだろうからさ」
「そういうものかな……」
「ああ。たった一人の肉親なんだろう?」
カレンとメルビンの両親はもういないらしい。二人で必死に生きてきた絆は強いだろうし、人とは違う異能を持つ苦しさはロベルトにも共感するところがあるのだろう。
ロベルトといえば、早く『時空の果てに響く旋律』の世界に戻って、ロベルトの相手を探さないといけない! というか、この世界にかまけてばかりいられないのだ。バッドエンドの危険度はあちらの方が遥かに上だし、ビッグクランチが起こればこの世界だって滅びに巻き込まれてしまうのだから。
俺がそう思ったちょうどその時、周囲に稲妻のような光が走るのが見えた。
「あ! 転移が発生するぞ!」
「ええっ、こんな時に!」
「カレン、メルビン! きっとまた来るからね!」
美樹がそう叫んだタイミングで光が眩くほとばしり、俺たちは転移した。
恐る恐る目を開け、周囲を見渡すと、俺の見知った場所だった。
「ここは、魔法学校の寮の中庭……?」
「つまり、私たちの世界ね」
ロベルトの言葉にアマンダが答えた。再び『旋律』世界に戻ってきたのだ。そして、今回は美樹と
乙女ゲームの世界でボスバトルをこなした後だけに、疲労で俺たち5人はしばし立ち尽くした。
「アマンダ先輩! 皆さん!」
聞こえてきたその声に振り向くと、シャネットが走ってくるのが見えた。
「よ、良かった……! 皆さんと夕飯に行った後に皆さんが消えたので、心配してたんですよ!」
微妙に涙声になるシャネットの頭をアマンダが撫で、ロベルトも声をかける。
「うわ、また可愛い
「第二ヒロインのシャネットだよ」
美樹の呟きに俺が反応する。美樹にはこの世界のこともバッドエンドのことも伝えてある。バッドエンド回避のため、俺たちがロベルトの相手を探そうとしていることも。
シャネットの声に釣られ、異能研究グループの寮生たちもわらわらと集まってきた。肝心のロベルトが転移してしまっていたし、アマンダと俺もだったわけだが、必ずまた戻ってくる確信からグループの解散はせず、訓練を続けていたらしい。
そして、アマンダが新たな来訪者である美樹と翔を紹介した。
「では、ミキさんとカケルさんの部屋の手配もしないといけないですね」
「アマンダ先輩たちはお疲れでしょう。私たちがやっておきます!」
アマンダの後輩たちはそう言い、寮長の元へ走っていった。
異世界からの来訪者が増え、寮長は頭を抱えていたようだが、すぐに美樹と翔の部屋を用意してくれた。当然のごとく同室ではあったが。
「あらまあ、仲良いのね、ミキとカケルは!」
「まぁ、ね」
アマンダの言葉に美樹が笑顔で答える。そのままアマンダが二人の馴れ初めとかを聞き始めたら俺のテンションが落ちそうなので、アマンダに身振りで挨拶して俺は自室に戻った。
「はぁ……」
ため息をつきながらベッドに倒れ込む。
立て続けに色んな世界への転移。しかも、一歩間違えればゲームオーバー、すなわち死んでいたかもしれないような状況もあったのだ。さすがに疲れた。今夜は泥のように眠りたい。
そんなことを考えていると、部屋がノックされた。
「はい、どうぞ」
俺が答えると、現れたのはアマンダだった。
「あれ、アマンダ?」
「あれって何よ? 今後の話をするんじゃないの?」
「ああ……」
アマンダは俺のジェスチャーをそういう意味に捉えたらしい。まあ、それならそれでも良い。人と話すのは気が紛れる。
「ミキとカケルがついてきてしまったのはどういうことなのかしらね?」
「いや、それを言うならその前からだよ。アマンダとロベルトが俺の世界に転移してるし、俺たちもカレンの世界へ転移しちゃってるんだから」
「それもそうね……」
複雑に絡んだ転移模様。それは、世界の意志なのだろうか。
ラザードの説明では、転移するのは、真実の物語に触れて感銘を受けた者だったはずだ。それなら俺もロベルトもアマンダも『混沌のホーリーナイト』の世界のことは一切知らなかったのだから、条件に当てはまらない。ラザードも把握していない例外が起きているのは間違いないだろう。
しかし、いずれにしても、この世界で復活する大いなる闇を倒すことは絶対必要だ。そう思い、俺はアマンダと共にロベルトの相手探しの話をした。状況的に第三ヒロインと第四ヒロインの登場も近い。俺としては、せめてその二人を選んでほしいところなのだが。
「それにしても、ヤマトは人のことばっかね」
「こんな状況なんだから仕方ないだろ」
「ヤマトからしたら転移者に選ばれたというプレッシャーもあるのかな? でも、少しは自分のための時間を作ってもいいと思うよ」
「いやいや、最低限、そのくらいはやってるよ! この世界でだって、色々と案内してもらってるじゃないか」
「ふふふ、なら次は案内してあげる番かもね……」
「え……?」
それはもしかして、美樹と翔のことを言っているのだろうか。そりゃ、今の俺ならこの街の多少の案内はできると思うけど。
「まあ、今日は皆疲れてるだろうし、明日、皆で街を回りましょ」
「あ、ああ……」
俺はアマンダの『皆で』という言葉に少し安心した。美樹と翔の案内を俺にやらされたらたまったもんじゃない。イチャつく二人を見ながら案内とか、流石に精神衛生上、良くはない。
食堂での夕食後、アマンダは寮生ではないので俺とロベルトとで見送り、俺は再び自室に戻った。寝る準備をし、ベッドに身を委ねる。
少し、アマンダと話した時のことを思い出していた。美樹と翔を連れて街に出るなど、想像したくもない。翔がいる以上、美樹がどんなに美人であっても好きになってはいけないのだ。そういう意味では、あの美少女と触れ合うのも本当は危険だ。しかし、彼女と会話をすることに心地良さを感じているのも事実だった。
「はぁ……」
この数日、久々に美樹と話せた嬉しさを隠すことはできず、俺はベッドの上で悶々と過ごすことになった。
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