♯4 奴隷妹の大罪「暴食」編

「それで、これからどうするのお兄ちゃん? 宿屋も燃えちゃったし住むところなくなっちゃったよ?」

「あぁ、これから奴隷商人のおっちゃんのとこに書類をまた貰いにいこう」

「ゆ、ゆうせんどーー!! ど、どういう作業の優先度してるのよお兄ちゃんっ!? こういうときって普通は住むところを探すほうが先決でしょ!?」

「そうだなぁ、よし! じゃあ奴隷商店行くか!」

「また私の検索履歴ゼロになってる……」


 ぎゃいぎゃいと騒ぐ妹を無視して、俺は奴隷商店に足を運ぶことにした。




※※※



 

「すいませーん、先日奴隷を買ったものなんですが。この前担当していただいたかたはいらっしゃいますかー?」

「はい、少々お待ちください」


 受付のおねーさんに声をかけ、奴隷商店のロビーのソファーに腰をおろした。


「まさかこんなにすぐにここに来るとは思わなかったよ……」

「お前の故郷ふるさとだろ、もっと落ち着けよ」

「全っ然、故郷ふるさとじゃない!」


 妹が俺に向かってわざとらしく頬を膨らませていた。


「それで、なんでお前そんなにそわそわしてるの?」


 妹はソファーに座ってから何故かずっと落ち着かない様子だった。


「えっ? そ、そんなことないよ?」

「トイレなららす前にちゃんと行って来いよ」

「お、おおお兄ちゃんって本っっっ当に!」


 妹の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「サイテー! デリカシーゼロ! 人でなし! ゴミ! クズ! 無職! ニート!」

「言われ過ぎにもほどがある! いいから、恥ずかしがらずに行ってこいって!」

「なんでいつの間に私がトイレに行きたいことになってるのよ!!」

「えぇ……じゃあ何でそんなに落ち着かないんだよ」

「そ、それは」


 妹がじーーっとテーブルの上のに熱い視線をそそいでいた。


「ま、まさか……!?」

「これ食べてもいいのかな?」


 な、なんとうちの妹はテーブルの上に載っている来客用のお茶菓子を狙っていたのだ! じゅるりとよだれの音が隣から聞こえてくる。確かに昨日は何も食べていなかったけど……。奴隷とは思えない中々の食い意地だった!


「……いいんじゃない?」

「だよね! だよね! やったー!!」


 バクバクバクっ!

 バリッ! ゴクンッ! ボリボリボリボリッ!


 す、凄い勢いでテーブルの上のお茶菓子がなくなっていく!


 バクバクバクっ!

 ボリボリボリボリッ!

 モキュッ! モキュッ!


 俺の隣で咀嚼音そしゃくおんの大運動会が開催されていた。


「おいひいおいひい! おふぃちゃんふぁたべふぁいの?」

「……何を言ってるかまったく分からん、口の中のものを始末してから話せ」


 俺がそう言うと、妹は一旦いったん食べることをやめて、目の前のお茶をゴクゴクと飲み干した。


「んぐっんぐっ、ふぅ……。んっとね、お兄ちゃんは食べないのって?」

「……お、俺にはお前と違ってまだ恥と外聞があるので」

「もしかして馬鹿にされてる?」

「してないしてない、いっぱい食べて素敵な妹だなぁと思って!」

「えへへ、ありがとうお兄ちゃん! あっ! ちょっとトイレ行ってくるね!」


 妹は、ボロボロの布切れをひらひらさせながらは小走りでトイレに行ってしまった。


 テーブルの上には食べカスが散乱していた。


 ……。


 ……。


 嫌味すらうちの奴隷おバカちゃんには通じなかった……。

 



※※※



 

「えぇえええ!? 退職された!? だ、だって最後にお会いしてから一日も経ってないですよ!」 

「申し訳ございませんお客様。確認しましたら急な退職だったようでして……」


 奴隷商店の受付のおねーさんが俺に頭を下げていた。


「そ、それはやむを得ないのでいいのですが、とりあえず返品の書類をもう一度いただけないでしょうか!?」

「かしこまりました。ではお客様、確認のために領収書のご提示をお願いしてもよろしいでしょうか」

「……領収書?」

「はい、領収書でございます」


 予想だにしていないものを求められてしまった。

 領収書なんてものは昨日宿屋と一緒に灰になりました。


「ふ、紛失してしまったのですが書類をもらうのに領収書って必要なんでしょうか?」

「返品の処理はこちらもトラブル防止のため、必ず領収書のご提示をお客様にお願いしております」

「ち、ちなみに領収書ないとどうなるんですか?」

「返品の書類をお渡しすることはできません」

「うがっ!?」


 まずい、非常にまずい流れだぞ……!


「な、ない場合の特別措置はないんでしょうか……!」

「担当のものの直接の確認ができればあるいはなのですが……」

「じゃ、じゃあ、この前の人を連れてくればいいんですね!?」

「そうなりますが……」

「ちょっと探してきます! 住所とか教えていただけないでしょうか!?」

「プライバシー保護のためお答えできかねます」

「ぐぬぬっ!!」


 えぇえい!

 こうなったらしらみつぶしに探していくしかない!

 こんな狭い町だ! 一日も探し回ればすぐ見つかるだろう!


「……住所を教えることはできかねますが、次の職場はゴミの収集関係だと聞いております」

「えっ!?」

「お客様は特別なご事情をお持ちのようなので……。私にお答えできるのは以上になります。お力になれず申し訳ございません」

「そんなことないです! ありがとうございます!」


 最後の最後に受付のおねーさんが俺に大ヒントをくれた!


 ということは町のゴミステーションを回っていれば、おっちゃんに出くわす可能性があるということだ!

 しらみつぶしに探すよりよっぽど効率がいい!



 (元)奴隷商人のおっちゃんを探しに、これからゴミステーションの張り込みを行うことにしよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る