異世界で奴隷を買ったら実の妹だったのでクーリングオフしたい件!

丸焦ししゃも

本編

第一章 クーリングオフ編

♯1 妹を返品したい!

 異世界転生……。

 現代とは、全くの別の世界に転生する男の憧れ。


 文化が違うので当然といえば当然だが、現代と異世界では全く別の倫理観で成り立っている。


 例えば、俺の元いた世界では人身売買などご法度中のご法度だったが、異世界では立派な商業として成り立ってしまっている。


 これは、異世界に転生した俺がを買ってしまい、それを返品しようと躍起になる物語だ。




※※※



 

「すいませーん、今買った奴隷を返品したいんですが」


 奴隷商人のおっちゃんに声をかける。

 あまりにも予想外の買い物をしてしまい、ただちに返品の要請をしていた。


「まままま待ってよっ! だから私は妹じゃないってお兄ちゃん!」


 奴隷として買われた少女が声を荒げる。


「嘘つけ! 奴隷契約どれいけいやくしたらお互いのステータスが全部見えるんだぞ! お前の素性だってまる分かりだ!」

「そ、それは何かの間違いかもしれないじゃん! お願いだから私を返品しないでってば!」


 ぼろぼろの布切れしか着ていないが俺に泣きすがる。

 まさか、異世界ハーレムの第一歩として買った奴隷が前世の妹だったとは夢にも思わなかった。


 何の因果か、俺は奴隷商人から前世の妹を高額で購入してしまっていたのだ!


「そ、そもそも私の見た目が好みだったから私を選んだんでしょ! ちゃんと責任もって引き取ってよ!」

「無理無理無理無理」

「なによなによ! 可愛い妹がこのままでいいって言うの!?」

「既に自分で妹だってぶっちゃけてるし……」 

「うるさいうるさい! お兄ちゃんのくせに! お兄ちゃんのくせに!」

「……そんなこと言っていいの? まだ返品前だけど、今は俺の奴隷としてお前がいるわけだけど」

「ぐぬぬっ」


 奴隷の妹が悔しそうに唇をかむ。


「人にお願いするときはどんな風にお願いするんだっけ?」

「……っ!」

「どんな風にお願いするんだっけー?」

「……わ、私を捨てないでください」

「なんか足りなくない?」

「……足りないって何が?」

「今は俺がでお前がなわけだけど」

「ぐぬぬぬぬっ!」

「ほらー、こういうときはなんて言うんだっけ?」

「……私を捨てないでください、ごごご主人様」

「よろしい」


 涙目の妹が悔しそうにこちらをぎろりと睨みつけていた。


「すいませーん、やっぱりこの奴隷を返却したいんですがー!」


「ちょ、ちょっとーーー! さっきのやりとりは何だったの!? 結局捨てる気じゃん!  お兄ちゃんの鬼畜っ! 悪魔っ!」


 奴隷の妹がぎゃーぎゃーと大声で騒いでいる。

 俺は、その声を無視して奴隷商人のおっちゃんに祈るような気持ちで駆け寄っていた。


「さきほどの奴隷契約を撤回したいのですが……」

「撤回? それは無理だよお客さん。こっちは代金全額もらってるし、商品の引き渡しは終わってるからな。契約書上は問題ないし」

「そ、そんな……」


 ちらっと妹のほうをみると、ニヤリと口元に笑みを浮かべていた。


「そ、そこを何とかする制度はないんでしょうか! どうにかしてこの奴隷を返品したいんです! 僕の世界ではクーリングオフといって契約を白紙撤回できる制度がありまして!」

「くーりんぐおふ?」

「契約を最初からなかったことにしたいんです!!」

「そんなこと言われてもなぁ、そこの奴隷にはもうが胸に刻まれているし」


 妹の胸元を見ると、奴隷契約の証としてタトゥーのようなものが鎖骨の下あたりに浮かび上がっていた。


「んー、契約から8日以内に司祭様のところに行ってお願いすれば祈祷で消してくれるみたいだけど色々書面とか必要になるみたいだぞ」

「それでかまいません! その書類全部ください!」

「……はぁ仕方ないなぁ」


 奴隷商人のおっちゃんはめんどくさそうに、俺にその書類を差し出した。




※※※



 

「ねぇねぇ、もう私を返品するの諦めたら? そんなにいっぱい書類書くのめんどくさいでしょ?」

「うるさい。なんとしてでも返品してやる」


 宿屋の机にむかい、書類を一心不乱に書いていく。

 俺は一刻も早くこの奴隷とおさばらしなければならないのだ。


「ふーん、お兄ちゃんって今はここの宿屋に住んでるんだね。お兄ちゃんって何かチートスキルとかないの? 異世界ではそういうのって定番じゃん!」

「……ない」

「えっ?」

「だからない」

「えー、つまんないなぁ。じゃあ職業はなにしてるの? 冒険者とか? もしかして勇者様とか!?」

「……」

「あっ、どうせお兄ちゃんのことだから魔法使いか! 何歳以上はとかっていうもんね、ぷぷぷ」

「お前みたいなステータスのやつに何も言われたくないっ!」


 奴隷契約どれいけいやくをすると、主従関係を結んだ奴隷のステータスが細部まで見えるようになる。

 うちの妹はほとんどのステータスが最低値。いて言うのであれば、ずば抜けて運のパラメーターが高かったが本当にそれだけであった。

 控えめにいってカスである。ゴミである。


「自分のステータスの基準なんてよく分からないもん。ねぇねぇ、そんなことよりお兄ちゃんの職業はなんなの?」

「……じゅうぎょういん」

「えっ?」

「だから、じゅうぎょういん」

「そのじゅうぎょういんって何? 新しい職業か何か?」

「そういうのじゃなくて“宿屋の従業員じゅうぎょういん”」

「……」

「……」


「あーはっはっはっはっはっ!! ま、まさか異世界にまで来て普通の従業員って!?  あーはっはっはっはっ!! もしかしてここの宿屋にも住み込みで働いてるだけ!? ぷぷぷぷ! あーお兄ちゃんらしいっ! あーはっはっゲフッゲフンッ」


 馬鹿笑いしすぎてむせるいもうと。いや馬鹿ばかいもうと

 そのままずっとむせてればいいのに。


「奴隷になってるお前に言われたくない」

「なになに、それ何の負け惜しみ? それでせっせっと働いて、あんなに高い奴隷を買って一発逆転な生活を送ろうとしてたんだ!」

「うるさい、すぐにその金は返ってくるから問題ない」

「ぷぷぷ、さっきのおじさんも言ったけど代金の支払いと商品の引き渡しが終わったら基本は返品できないらしいよ、そんなに書類書いても返品できるかどうか分からないよー! 残念だったねー!」

「うるさい! うるさい! 絶対に返品してやるから見てろ!」

「べーーっだ!! 絶対に返品されてやらないもん!」



 こうして、絶対に返品したい兄 VS 返品されたくない妹 の仁義なき戦いが始まってしまった。


 ――この時の俺は、まさか返品されたくない妹が数日後にあんな行動に出るとは思いもしなかったのである。

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