6 王子サマ登場

 そうして、ギャラリーが集まりきり。遅れること十分。ようやく、いらっしゃいましたわ……吠えながら。

 その間、ずっと小娘と落ちるか落ちないのかギリギリのラインを保つ私。凄いと思うのは、私だけかしら?

 だって、ね? 本来なら、すぐにでも落としたかったんですが。そろそろ、物語も終盤ですもの。にご登場願わなければね。


 

「マルティナか? 見つけたぞ! オイッ、何してるんだマルティナ‼」

「……見てわかりませんか? なかなか堕ちないので、直接手を出しているのですよ」

「そんなこと見ればわかる‼︎  て、そうじゃない!」


 

 あら、キャンキャン仰ってますが……一体、何を吠えているのでしょう?

 だいたい、私の言う『堕ちる』と多分あなたが言う『落ちる』はちがうと思いますが。今は、どうでもいいですわね。

 あ、邪魔なのでこの方はお返ししますわ。疲れましたし。


 ひょいっと避けると、バランスを崩して落ちそうになるリアナをフェリクス殿下が上手いことキャッチしました。運動神経は良かったのですね、殿下。

 


「大丈夫か? リアナ」

「フェルが助けてくれたから、大丈夫よ」



 ――ツッコみませんわよ。私のお膳立てを踏みにじる方たちのお膳立て、ノるわけがないでしょうに。


 ツッコみは諦めたのか、フェリクス殿下は何事もなかったかのように話し始めましたわ。

 

 

「マルティナ‼ 貴様はそうやってリアナを虐めていたんだな! そんなことが許され」

「許されますわね。私、公爵家の者ですもの。対して、そちらは……ね? として処して、何か問題がおありなのですか?」

「あるだろう‼」



 本当に、このフェリクス殿下おバカさんは何を言っているのでしょうか。なんだか、だんだん飽きてきましたわ。


 

「……殿下。まさか、そこまで馬鹿だったとは」

「ふっ不敬だぞ⁉」

「では。何故、私が殿下のことを貶せば不敬なのに、公爵家の者わたくしを貶して不敬にならないのです? 貴族社会舐めてますの?」

「ぅ……」



 おバカでも、もう少しお勉強していただきたいものですわ。あ、しないから私が婚約者に選ばれたのでしたね。うっかりしていましたわ。

 


「そもそもです。殿下、彼女との『真実の愛』を貫き通したいのなら、冤罪くらい十でも二十でもなすりつけるのがスジではありませんか。あなたがたが行っているのは、お遊戯以下のただの幼稚なお遊びなのですよ」

「お遊戯以下……」

「幼稚なお遊び……」



 あら? そこは驚くところではないと思うのですが。むしろ、冤罪をでっちあげろと言っているところをツッコんでいただきたいのです。おバカさんたちには、それすらもむずかしかったと言うのでしょうか?

 もう、いいですわ。完全に冷めましたわ。

 

 

「だって、わざわざ私がお膳立てまでしたのに……。あなたがたといえば、やれ『本当に襲われるみたいで怖い』だの、やれ『骨折したら痛いからイヤ』だの喚いていたではないですか」

「「お膳立て?」」



 なぜわからないのですか。おバカさんたちだけで、冤罪なんて吹っ掛けれるはずもないでしょうに。


 

「ええ。そちらの方を襲うのに雇って配備しておいた暴漢たちは、あなたがたが『本当に襲われるみたいで怖い』『かわいそうだ』等ぬかして指定場所に現れなかったため、お金を受け取らなかったんですから。配備はしてくれましたので、謝礼に受け取らせようとすれば『後が怖い』とか何だかと言って、我が領地の農地をわざわざ耕して帰られ……暴漢にも領民にも御礼を言われてしまって。私、とても困りましたのよ?」

「「え? いいんじゃないの?」」


 

 マルティナは知らなかった。

 タリスマン公爵家は政治面で裏を牛耳っているため、手を汚す仕事ももちろんある。そのため、裏社会に通じる者たちは必ずタリスマン家に仕事を回してもらう。

 また、裏社会のトップですらタリスマン家に一目おくほど後が怖いと有名。そのため、裏社会に手を出し始めた者は必ずと言っていいほど、初めに覚えるのは『タリスマン家には手を出すな』。もちろん『命が惜しければ』がつく。

 彼らも命を懸けてまで手を出すはずもなく、程よくを続けているのだ。

 だから、金だけを受け取ることはなかっただけ。

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