050 装備レベルアップ

 ここ3日ほど、みんなで朝からぶらぶらしている。

 朝はナナちゃんも入れて6人で西の市場で朝食を取る。

 

 俺が発見したお気に入りは、おばあちゃん2人組でやってる屋台だ。


 屋台に顔を突っ込むと気難しそうなおばあちゃんが2人座っている。

 言葉はいらない。というか言葉をかけても返事してもらえない。おばちゃんたちが喋るのは客に代金を告げるときだけだ。注文方法はうなずくのと指差しでおこなわれる。店に入ってうなずくと最初に右のおばあちゃんが、木のお椀にがっつりとご飯を持ってくれる。

 ひよこ豆(豆の種類はチュウジに教えてもらった)と油を混ぜて炊き込んだらしいご飯を受け取ると、左のおばあちゃんが上にカリカリに揚げたタマネギとトマトソースをがばっとかけてくれる。

 あとはおばあちゃんたちの間に並んだ大皿からトッピングを選ぶ。指差すと、それをご飯の上にどさっと乗せてくれる。

 今日は揚げたブタ肉、明日は魚のフライ、明後日は煮込んだ牛肉、いや、もう全部のせでも良いんじゃないか。

 そんな感じで贅沢をしても、お代はたった銅貨4枚から7枚程度。

 料理の名前を聞いてもおばちゃんたちは口をきいてくれなかったが、横にいた別の客が「混ぜ飯」だと教えてくれた。

 愛想のかけらもない混ぜ飯屋だがいつも汗臭い男どもで繁盛している。

 木のお椀を持参すると、それに盛ってくれるのでテイクアウト可能だ。けっこうな数の客がテイクアウトして、別のものと組み合わせて食べているらしい。


 「3日連続で同じものを食い続けるというのは、お前はドッグフードを食べる犬か何かか?」

 オムレツらしきものを挟んだサンドイッチを片手にチュウジが嫌味を言う。

 「そんなこと言ったらワンちゃんに失礼だと思います」

 同じくオムレツサンドを手にしたサチさん追撃してくる。あ、この前のツンデレいじりの仕返しをされているのかもしれない。

 「でもね、シカタくんってちょっと犬っぽくて可愛いところがあるんだよ」

 と野菜のスープの器を両手で抱えながら、ミカ。かばってくれて嬉しいが、犬と同じかそれ以下かというところに防衛ラインが引かれているところが少しだけ悲しい。

 「若いって良いですねぇ……」

 お粥をすすり終えたサゴさんがつぶやく。考えてみれば、サゴさんも朝食は毎日同じお粥しか食べていない。

「サゴさんだって……」

 俺が言いかけると、ナナちゃんがまとめる。

 「サゴさんはびっぽくて良いのよ。毎朝油たっぷりの飯ドカ食いしてるあんたはダメ」

 最初に会ったときはサゴさんのことを「うすらハゲ」と罵っていた彼女だが、落ち着きを取り戻してからは年上のおじさまに敬意を払っている。

 ああ、よきことかな。俺はいじられまくってるけど。


 朝食後は、薬師の奥さんのところに通うナナちゃんと別れて俺たちは市場を見て回る。


 「命を大事に」というサチさんの方針で彼女を含む全員が鎖かたびらを買うということになっている。

 俺たちがかつてないほどの金をもっていると言っても、それでも鎖かたびらは高い。新品は当然買えないので、中古品を探してまわる。ちなみに小柄なミカとチュウジに合うサイズのものは割高のようだ。

 「材料は少ないはずなのになんでなの?」

 となげくミカに割高の鎖かたびらを提示した店の店主は言ったものだ。

 「このサイズのはなかなか出回らないもんでね」

 「うんうん。かーちゃんが買ってくる俺の服より、うちの犬の服の方が高い原理ね」

 さっきのお礼にとばかりにミカをからかう。

 「犬同士だね」

 彼女は全然気にしてないようでふへへと笑う。俺もつられてふへへと笑う。


 俺とチュウジは武器も追加することにした。


 俺は片刃の剣とこれまた片刃の短剣を買うことにした。剣はつかが長めで片手、両手どちらでも使えるようになっている。片刃のものにこだわったのは、両刃は自分を切りそうで怖いという理由だ。


 チュウジは小剣を1本買い足し、無事に双剣という自他ともに認める中2病っぽいスタイルになった。円盾と鎖分銅は普段もそのままで相手によって使い分けるそうだ。腕が何本あるんだと突っ込みたくなったが、そもそも俺も戦斧と剣を使い分けるつもりなのでなんとも言えない。

 「それにしても手は心配じゃないのかよ?」

 チュウジは中2病スキルの発動のために手のひらが出るような手甲をはめている。それで手を狙われるのが嫌だからと鎖分銅を武器に選んだはずだ。

 「鎖かたびらと手甲を重ねていれば、よほどのことがない限り大丈夫であろう。そのあたりも使い分けをすれば良いと考えている」

 実際のところどうなのかわからないが、チュウジの小剣は拳を守る大きなカップがついていることもその理由だろう。


 そのチュウジだが、こいつは突然剣に名前をつけた。

 「この剣を魔剣ダーインスレイヴと名付けることとしよう」

 相変わらずの中2病だ。

 「彼氏は奴隷ダーリン・スレイブ?」

 と返すと、へそを曲げて、1日口を聞いてくれなかった。このやり取りをしているとき、後ろではミカとサチさんがちょっと目を輝かせていたが、その理由は聞かないでおく。


 ミカは武器を買うことはなかったが、盾を新調することに決めた。彼女にとっては盾もほとんど武器みたいなものだから、実質武器を買ったも同然かもしれない。

 彼女が購入を決めたのは鉄の大盾である。持たせてもらったがこれを使いこなす自信はないくらいに重い。彼女のぬりかべアタックもパワーアップすることだろう。


 サゴさんは槍を直すのと矢を少し買い足すだけでいいらしい。

 「片手斧もらいましたしね。あんまり武器持ちすぎよりはこれくらいで大丈夫です」

 そう、俺の片手斧はサゴさんに譲った。

 他には俺以外の全員が新品・・面頬めんぽおを買った。俺も新品に変えたいと言ったが、却下された。

 「臭い以外はそいつは良い造りだからな。まぁ、それをつけたまま、我には近づかないでほしいものだがな」

 煽るチュウジに面頬めんぽおをつけたまま頬ずりしてやった。もう、攻めだろうと受けだろうとかまわない。好きにしてくれ、ただし、チュウジ、お前も道連れだ。


 最後に1つ、チュウジがおもちゃ屋で転がる子どものごとく、ダダをこねて勝ち取ったものがあった。

 新品の黒い鎧上上着サーコートである。

 店の前を通りかかった時、開いた扉からちらっとのぞいたそれを見た瞬間、チュウジは動かなくなった。


 サーコートと言っても十字軍の騎士が着ていそうなのとは違って、袖と高めのえりがついていて、前開きである。くるぶしくらいまでありそうな長さのそれは黒く染められ、袖口や襟口、前合わせに赤い刺繍がほどこされており、さらに左のくるぶし上にかかるあたりには向い合せで踊る道化師みたいな刺繍がほどこされている。ヤツの中2心を捉えて放さないそれは見ようによっては行きつけの床屋に置いてあった古いヤンキー漫画の中でしかお目にかかれない特攻服のようにも見える。


 「ここで出会ったのは運命なのだ。なぁ、シカタよ、そうは思わぬか?」

 チュウジは上気した顔で誤解されそうな物言いをする。

 銀貨3枚、今の俺たちだったら、出せないことはないが、中古の剣よりも高いものにお金を出すのも気が引ける。

 みんなも同じ考えであったようで、口々にチュウジを説得しようとしたが、チュウジは「運命なのだ」とか「暗黒騎士の矜持きょうじがっ!」とか「欲しいのだ!」とまぁ見事なまでの駄々っ子っぷりでらちが明かない。

 最初に折れたのはサチさんだった。

 「チュウジくんがそこまでほしいのならしかたないですよねっ?」

 周りに同意を求める。

 まぁ、これまで言動はおかしいものの(ヒナを育てるとか言い出したのをのぞけば)ワガママを言ったりしていなかったチュウジゆえにみな結局折れて買うことになった。

 

 みんな、チュウジには甘い。

 俺なんてハゲ隠し用に頭に卷く布を買いたいと言ったら、自分の小遣いで買えと言われたのに……。

 チュウジを除く他の4人はフード付きのマントを買った。日除け兼雨具として使えるだろうと思う。


 チュウジの中二サーコートはその場で、そして他の武器防具は後日購入し、俺たちはそれなりに見栄えのする感じになった。

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