043 後始末1

 まず埋葬をおこなうことにした。

 損傷のひどい(元)仲間の遺体を見るのは酷だろうということで、女性陣には巣を見ていてもらうことにした。

 巣にヤマバシリのヒナがいたからである。

 2羽のうち1羽は、サゴさんの矢が運悪く当たったらしく息絶えていたが、もう1羽は元気だった。


 「高く売れるかもしれませんから、大事に連れて帰りましょう」

 「ギョエギョエ」とお世辞にも愛らしいとはいえない鳴き声を発することを除けば、親に似ず、とても可愛らしい。綿毛のような白い羽につつまれ、やや形の崩れた鏡もちみたいな体型をしたヒナはこちらを必死に見つめながら、大きく口を開けてエサを要求している。親鳥の目の小ささは不気味さを感じさせたが、ヒナの小さな黒い目は愛くるしいと感じてしまうから不思議なものだ。

 「こんな可愛い子なのにね。あんな怖い鳥になっちゃうなんて信じられないよね」 

 ミカはつぶやきながら、燻製肉をヒナの口に放り込んであげている。

 まさか遺体をエサにするわけにもいかないし、かといって、親鳥の肉を食わせるのも抵抗感があるということで、ヒナには燻製肉をあげることになった。


 巣の近くには見事な大木があった。

 本当は遺体をその根元に埋めてあげたかったが、木の根っこに阻まれて、うまく掘ることができなかった。

 だから、大木から少し離れたところに穴を掘って埋めることにした。

 実は土葬にして良いものかというのは迷った。荼毘だびに付したほうが良いのか、サゴさんとチュウジと少し話し合った。

 「仲間の遺体が目の前で焼かれていくのを見せるのもまた酷かもしれませんね」

 「火葬場で待つのとは違うのだからな。何が正解かは我にもわからぬが、今ここで死を実感させなくとも良いのかもしれぬ」

 俺も2人に賛成だった。


 俺とサゴさんが戦斧と手斧で穴を掘り、中から出てきた石や根をチュウジが取り除く。こちらのほうは頑固な根もなく、穴を掘るのは楽だった。

 そもそも大きな穴を掘らなくても良かったというのもある。

 俺たちが来た時に殺られたサエグサを除けば、他は皆かなり軽く・・なっていたからである。

 薬師の遺体も例外ではなかった。

 遺品としてネックレスと指輪が指定されたが……首のあたりはどうにも無惨むざんなことになっていて、ネックレスは見つけることができなかった。

 かろうじて見つけることができた指輪をよく拭いてから布につつんで貴重品袋に放り込む。

 

 せめてものということで、こちらもかろうじて見つけた髪の毛を少し切り取って洗って水気を取ってから、指輪と一緒にした。遺髪という習慣がこの世界にあるかどうかはわからない……。

 ナナちゃんパーティーの仲間に関しては全員の遺髪を小分けにして取っておいた。遺品はいらないだろう。俺たちはこの世界に来て間もない。思い入れのある品物なんて多分ない。

 

 それぞれの武器を墓標にする。目立つ武器を持っていなかった薬師の墓標は木の十字架とした。

 俺はクリスチャンではないし、薬師も当然クリスチャンではない。この世界の墓標や埋葬様式について、俺たちは何も知らないが、十字架ならば目立つし、何か思い出の品をかけやすいかもという理由だ。


 「なぁ、俺が死んだらさ……」

 ぼそっと横にいるチュウジに話しかける。

 「貴様が死んだら、その遺体からだは野犬の餌付けに使ってやると言っただろう。ただ、そのようなものを与えられる野犬のことを考えると不憫で仕方がない。だから……死ぬな」

 「奇遇だな。俺も似たようなこと考えてたよ。お前は変態っぽいからな。骨を便所に捨てたら、誰かがう○こする度に歓喜の声上げて心霊スポットになっちゃって困るよな。というわけで生きとけよ」

 「そのやり取りはミカさんとサチさんの前でやってあげると2人が喜びますよ」

 サゴさんの言葉に俺たちは全力で首を横にふる。

 サゴさんは俺たちの肩に手をかけて言った。

 「さぁ、みんなに声かけにいきましょう」


 「終わりましたよ」

 サゴさんが、ヒナの世話をしていた女性陣に声をかける。

 埋葬場所に案内する。

 泣き崩れる女性陣に何もしてやることができない。

 座り込んで泣くミカの横に座る。

 彼女を励ます言葉は見つからない。必死に考えたが何一つ思い浮かばない。だから、黙って横に座っていた。

 しばらくするとミカが寄りかかってきた。

 やはり励ます言葉は見つからない。震える彼女に肩を貸すことしかできないのがもどかしい。


 カナ、キョウ、サエグサ、薬師はドランという名だった。

 心の中で4人の名前を呼ぶ。同期の3人とはあまり話したことはなかった。ドランにいたってはそもそも生前に会っていない。

 それでもお疲れ様、安らぎを得られますようにと祈る。誰に祈っているかわからないが、ただ祈った。

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