021 村へ

 「助けていただいてありがとうございます。あなた方が仕事を受けてくださった探索隊の方々でいいですか?」

 男は俺たちにたずねる。

 「はい。首都グラースの酒場で依頼を受けました。詳しい状況をお聞かせいただきたいので村へ案内していただいてもよろしいですか?」

 狩人のステンと名乗った男に先導されて村へと向かった。


 村は家が10軒ちょっと立っているだけの小さな集落だった。

 「まだまだ開拓中で設備も整っていないのですが、それでも汗水流して開墾かいこんし、ようやく軌道きどうに乗ってきたところなんです。ゴブリンの群れが近くに現れたといって、ここを放棄できるはずもありません」

 村の集会所という小屋の中でステンさん他、壮年から老人合計20名ほどの大人に囲まれて説明を受けることになった。

 

 遭遇する可能性が高い亜人については訓練所の座学である程度学んだ。ゴブリンは真っ先に遭遇するから、ゴブリンの夕食になりたくなかったらしっかり覚えておけとはモヒカン教官の言葉だ。


 ゴブリンは通常数家族程度の群れで移動生活をしている。規模としては20匹から100匹程度になる。


 「我らが居た世界でも狩猟採集をおこなう民族は同様の生活を送っていたらしい。農業や牧畜をおこなわない限り、食料獲得量ははやい段階で頭打ちになるからだ」

 「チュウジくんって本当にインテリだね」

 ミカさんがチュウジを褒める。

 「パパが鞭使いの達人だからな」

 「考古学者と戦闘能力は関係ない。それに我は父のことをパパとは呼ばぬ」

 「戦闘要員は総員のだいたい4分の1ということでしたよね。残りは戦闘に耐えない幼齢のゴブリンでしたっけ?」

 サゴさんが話を戻す。

 「となると、戦闘要員は5匹から最高でも20匹程度。すでに2匹倒しているから3匹から18匹程度ですか」

 「シェルターの数からすると、総数で40匹程度だと思います。戦闘要員は10匹、先程倒した2匹を引いて、だいたい8匹前後のはずでしょう。もちろん、あくまで目安ですけどね」

 ステンさんはサゴさんの言葉に答えると、そのまま続けた。

 「狩りをやっているので獲物の痕跡や足跡を見つけるのは得意なんです。先日、ゴブリンの足跡を見つけたので、こっそり探ったんです。ここから半日ほどのところにある森の中です」


 ゴブリンは洞窟があれば、そこを好んで住居とするが、洞窟が見つからない場合は木の枝葉を駆使くししてシェルター的な簡易住居を作る。今回は後者のようだ。


 「さっきはなにがあったんですか?」

 ミカさんが質問をする。

 「ゴブリンが出たからと言って畑仕事をやめるわけにはいかないし、狩人の私は狩りに出なければなりません。この開拓地で休むということはこの地を放棄するのとほぼ同じ意味ですからね。それに……」

 ステンさんはうつむいて、少ししてから続ける。

 「このあたりまでゴブリンがやってくるとは……正直なところ、思いませんでした」

 「生活圏が被ってしまった以上、この状況は必至。我らは紙一重の差で間に合ったということで良いな?」

 チュウジの大仰おおぎょうな物言いに集まった大人たちが大きくうなずく。この地から離れては生きていけない、だから、頼む。そのようなことを口々に俺たち対して言った。


 快適そうとも裕福そうとも見えない暮らしぶりである。しかし、あるいはだからこそ、この暮らしは死守しないといけないと思っているのかもしれない。彼らと同じというかそれ以上にその日暮らしで追い詰められている身としては、ものすごく共感できる。


 「それでは、明朝、出発しましょう。ステンさん、申し訳ないのですが、道案内お願いしてもよろしいでしょうか?」

 話が一段落したところでサゴさんがステンさんにガイドを頼む。場所がわかっていない俺たちでは無駄に時間がかかるだけだ。サゴさんが頼んでくれた助かった。

 「もちろん、そのつもりです。ただ戦闘面では期待しないでください。開始前には何本か矢を放てるかもしれませんが、戦闘が始まったら、安全なところまで退避させてもらいます」

 まぁ、尻に間違って矢が刺さるのも嫌だし、これは妥当だ。

 ただ自分たちの倍以上の数のゴブリンを倒せるのだろうか?

 さっき自分たちより少ない数のゴブリンに苦戦していたのに。

 逃げ出したいが、逃げ出しても生きていけない。


 必要なのは作戦会議だ。

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