018 街道をすすめ
気がついたら翌朝だった。
「おまえ、さすがに同じパーティー内であぶないスキル使うのやめろよ」
文句を言う俺にチュウジは素直に謝る。何か悪いものでも食ったのか、こいつは。
「申し訳なかった。謝るから我には近づくな。これ以上の誤解は我ら二人どちらにも良くない。いや、だから我々はそのような関係ではないし、将来的にそのような関係にもなることはない。ゆえにナマモノ的素材にもならないのだ、ミカ殿っ!」
チュウジが素直な理由がなんとなく想像がついた。意識を失っていて良かったのかもしれない……。
仕事の依頼先の開拓村は西に1週間。大きな街道にそって5日ほど歩いて、そこから北に2日ほど行ったところにあるそうだ。
保存食として米と燻製魚、塩を3週間分ほど、鍋を2つ買った。これで銀貨3枚と銅貨60枚がなくなった。
本当は片道の1週間分だけ買うつもりだったが、途中で保存食を買えるような商店はないと聞いて多めに買うことにした。
他には人数分の皮の水袋これで銅貨が60枚。
これで残りは銅貨99枚。もうチンタラしていられない。とはいえ、朝、少しは腹に入れておきたい。
「朝食代わりにあの甘い粥だけ飲んでいきましょう。あれなら4人で銅貨4枚ですみますから」
サゴさんがミカさんに聞こえないような小声で俺たちに提案する。聞こえたら彼女は自分を責めずにはいられないだろう。
「ミカ殿。我らは昨日大変美味かつ消化に良さそうな食事を見つけた。申し訳ないが付き合っていただきたい」
チュウジが誘う。この意味不明な口調が今回は良さそうな方向に働いたのか、ミカさんは笑顔でついてきてくれた。
「甘い粥というのは驚くかもしれないが、実は世界的に見ればそれほど珍しいものではない……」
チュウジが前回と同じネタを使い回す。前回居なかったミカさんはふんふんとヤツの言葉にうなずきながら、甘粥をすすっている。中二病全開で陰キャを地で行くような男なのにこういうところで気遣いできるんだな、こいつ。良いところだけど褒めると絶対調子に乗るし、俺には優しくないから意地でも褒めないでおこう。
ここグラースの街は城塞都市なのだが、俺たちがうろうろしている街区は城塞の外側だ。
城塞の内側に入ることができるのは市民権を持つものだけで、俺たちのような準市民は基本的に入ることができない。
城壁の外側も城壁に近いほど整備されていて、城壁から遠くなるほどみすぼらしくなってくる。
訓練所は城壁に比較的近いところにあったが、西の市場はそのみすぼらしい地域にある。ちょっと足を伸ばせばすぐに街道だ。
街道への出入り口には大きな橋があり、そこに検問所がある。商人や狩人といった税金が関わる人間の出入りを主にチェックしている。商人はともかく、狩人に税金とは何だと思うかもしれないが、野生の動物は基本的に共和国のものでそれを商売目的で狩猟するのには、狩猟権が必要なのだそうだ。世の中、何をするにも金が必要だということを思い知らせてくれる。貧乏はつらい……。
俺たちが仕事で外に出ることを伝えると、番兵のおっちゃんは「新入りだろ、死ぬなよ」と励ましてくれた。
街道は比較的安全だという。
気をつけないといけないのは盗賊や亜人の襲撃、危険な野生動物との遭遇だというが、実際にはそのようなものに出会うことはあまりないらしい。
盗賊は実入りの悪い仕事はしない、要するにいかにも貧乏人の俺たちみたいなのを襲うことはあまりないと。亜人は駆除対象で街道付近で遭遇することは稀、野生動物は一部を除けばそもそも人間を避ける。
じゃあ安全かといえば、そうでもない。危険に出会う頻度が多くないと言うだけで、出会ってしまったら危険だ。
盗賊や亜人は勝ち目があると踏んで襲ってきているわけだし、野生動物も逆上して向かってくるかもしれない。
この世界での旅は一見のどかに見えても危険と隣り合わせなんだろう。
「危険を避けるためにはどうすれば良いんですか」
訓練所時代の座学の時間に質問した俺にモヒカン先生は次のように答えたものだ。
「油断するな、すきを見せるな、いざとなったら腹をくくれ」
街道といっても舗装もされていない道だ。でも、行き交う旅人に踏み固められた地面は歩きやすい。
「我が必殺の一撃を見舞う敵は
そんな敵は当然現れずに一日は過ぎた。
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