010 案外地味な訓練生活
寝るのが早いので日の出とともに目をさます。
外では井戸水をバケツにためて、顔を洗ったり、歯を磨いたりしている人たちもいたので、俺もそこに混ざる。
「おはよーございます」
「あぁ、おはよう」
俺も顔を洗い、歯を磨く。磨くと言っても歯ブラシもないので指でこするだけだ。
落ちている木片を拾って爪楊枝のように使っている人もいたので、それも真似する。
「朝食、集合!」
モヒカンの声に食器を持って、皆食堂前に集まる。
片方のお椀には粥状のものが注がれ、もう片方には小魚を煮たものがそそがれる。
小魚の種類はフナみたいなのや小さなナマズみたいなのやら様々で、網かなんかで取れたものを片っ端から鍋に放り込んで似たんだろうなという気がする。
座る座席は自然と昨晩のとおりになった。
「お、色はともかく、甘露煮っぽい。お粥に甘露煮ってなんだかほっとしますね」
胃の弱そうなサゴさんは嬉しそうにお粥をすする。
ほっとするのは確かだけど、飲み物に近いぐらい多めの水で炊かれているので、食べ盛りの若者には満足感が薄い。
小魚を粥の中に放り込んでかきこんでいると、塩味のスープを飲んでいるような感覚になる。
あっという間に朝食は終わってしまった。
「食べ終わったものから食器洗浄、しまい終わったら、外で待機。午前の訓練を始める」
訓練は何をするのかと言えば、ロープワークと火の起こし方だった。
モヒカン教官いわく「どんなに強くとも、外で生活ができないことにはやっていけない」
もやい結びくらいは竹刀を組むときに使うからやったことはあったが、いつもスマホで調べながらやっていたから、ぱっとできない。
ボーイスカウトやガールスカウトの経験があるという者以外はたいてい苦戦していた。
火は火打ち石と小型のナイフと木片を渡された。
木片を細かく削って火口を作り、火口の上で火打ち石をカチンカチンやって火花を火口に移す。
言葉で書くとたいしたことがないようだし、実際にモヒカン教官はものすごく簡単に火起こしをしているのだが、俺達みたいな未経験者には実に難しい。
まず火口を作るのが面倒だ。
「ブッシュクラフトでやってるから」
参加者の一人の男は器用に削っていくが、それがなかなかできない。
うまく火口を作ってもそこに着火するのが難しい。
火打ち石をかちかちやっても火花はなかなか散らないし、火花が散ってもそれはなかなか火口を燃やしてくれないのだ。
ブッシュクラフトの人も
「チャークロスとかあったらなぁ」
とか嘆いている。
チャークロスが何なのか知らないけど、チャークロスよりもチャッカマンのほうがほしいぞ、俺は。
途中思い立って、こっそりと火打ち石を叩くふりをしながら、
あ、これなら火打ち石いらないかもって程度の火は出たし、なんとか火もおこせた。
「おっ、すげー、コツあるの?」
昨日、リス系の女の子に吹き飛ばされたウェーイ系男子(名前はシュンというそうだ)にたずねられたが、能力ですとも答えられない。
「なんか偶然ですよ。こうやってカチッカチッってやったら、火花がばっと散って……でもうまくいかないや、すんません」
と適当にごまかす。
こんな感じで地味なサバイバル技術訓練で午前中は終わった。
昼飯はなく、そのままぐるぐると運動場を走らされる。
へとへとになったあとに戦闘技術の訓練がはじまった。
訓練とは言っても基本は素振りばかりだった。
運動場にしつらえられたカカシを相手に、はじめの合図で打ち込みをはじめて、やめの合図で交代する。
それぞれが模擬戦の経験をもとに選んだ武器および基本的な剣盾の効果的な扱い方について、個人的に教えてもらったりする。
最後に二人一組になって、模擬戦をおこなう。練習での模擬戦は原則スキル使用禁止で純粋に武器だけで勝負をするものだった。
原則禁止というところがミソでこれは目に見えるようなスキルは使用禁止ということだった。
俺の
このスキルはけっこう癖があって、ここが決められる間合いだとしてもびびって腰が引けると外れることがあるようだ。
部活のときに顧問の先生が言ってた。
「捨てきって打て」というのを思い出す。ここぞというときは自分を信じてしっかりと踏み込まないといけないということか。
派手な名前のわりにはえらい地味なスキルだ。
徒手格闘訓練と称して、いくつかの投げ技や関節の極め方や押さえ込み方を習った。
授業で習った柔道との違いは押さえ込んだあとに短刀でとどめを刺す方法まであったことだ。
そこらへんは昔の剣道にあったらしい組討ちってやつに似てる。
受け身が取れるやつと取れないやつに分けられて、受け身が取れるやつはお互いに乱取りのようなことをさせられた。
受け身重視の柔道教師のありがたい体育の授業のおかげで受け身だけは取れた俺は、ガタイのいいあんちゃんたちに良いように投げられ締められ大変だった。
最後に遠距離武器術訓練と称して、弓やクロスボウの使い方を習い、実際に的を射った。
才能はないのか、弓はまったくあたらなかったが、クロスボウは多少は当てることができた。
訓練がすべて終わると水浴び、食事、就寝で一日が終わる。
午前はサバイバル技術やそれに関係する座学、生物、植生、地理や歴史、午後は体を使った練習を繰り返す。
初日も数えるなら十日間にわたり、このような合宿ライクな日々を送ったあとに、俺たちはなんとなく送り出されることになるのだった。
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