006 模擬戦その2

 先にネタバレしちゃうと第二戦はあっけなく終わってしまった。


 小さく前ならえで腰に手をあてちゃうくらいに小柄な子が声をかけられて前に出た。くりくりした目であたりをキョロキョロと見回してみたり、ちょこまかと動いてみたり、リスっぽい。ドングリあげたら頬袋につめてくれそうだ。

 対戦相手として選ばれたのはちょっと悪そう、だけど不良とまではいかない若者。俺みたいな陰キャ寄りの人間から見ると、ウェーイって言ってそうで近寄りがたいタイプ。明るい茶色に染めた髪の毛とゆるやかなパーマが俺のよくわからない劣等感を刺激する。大学デビューだ、大学デビューに違いないっ!

 小柄な子は自分がすっぽり隠れる大きな盾と武器はメイスっぽいやつを持っている。彼女が盾を構えたところを正面から見ると、盾から見えるのは足先くらいで、女の子の見た目を描写するには大変申し訳無い表現だが……ぬりかべっぽい。

 ウェーイ氏は長剣二本の二刀流でいくらしい。

 頑張れ、リス子(ぬりかべ)さん。怪我しないでねリス子(ぬりかべ)さん。


 先程のアニキ対おじさんの逆転劇を見たばかりで、それぞれが隠し技みたいなのを持っていることを思い知らされただけあって、ウェーイ氏も油断していなかった、と思う。

 油断していなかったはずなのだが、それでも「はじめ!」の合図とともに起こったことには対応できなかったらしい。


 リスっぽい女の子は、盾に全身を隠したまま、ものすごいスピードで突進していった。巨大な盾がアメフト選手か総合格闘技の選手のタックルのようにウェーイ氏を襲う。

 ウェーイ氏は構えた長剣をとっさに交差して受け止めようとする。反応としてはまずくなかっただろうが、相手のスピードと力は想定外だったのだろう。

 受け止めることは受け止めたが、十字に交差させた剣ごと盾に押しつぶされ、尻もちをつくウェーイ氏、そのままメイスで強打されて失神。

 うん、えぐい。こんなのわからないよ。俺はウェーイ氏に少しだけ同情した。

 リス子さんは、相手を倒してしまってから、ドングリを抱えて走り回るリスのようにあたふたとしながら、しきりに謝っていた。


 「肉体強化系の能力者か」

 俺のとなりにいた中学生っぽい男子がつぶやく。小柄でさらさらの髪をおかっぱにしている。ウェーイ氏がリア充よりだとすれば、こいつは俺と同じ陰キャ組だ。

 「ふっ、しかし我が漆黒の左ジェットブラックレフトの前では赤子の手をひねるも同然。静まれ、静まるのだ、我が左手よ、ふふふふ」

 わーステレオタイプの中二病となりにいるわー。誰かにこの気持ちを伝えて、一晩語り合いたいわー。

 と、となりを見たけど、隣にいるのは女の子。うん、話切り出しせないし、切り出したら、たぶん、俺避けられる。やめとこ。


 三戦目は小柄な男性と190センチはあろうかという男性。

 二人が前に出るように言われて歩いて行く後ろ姿の身長差がものすごい。

 小柄な方は両手剣を持ち、腰のところに短刀をぶらさげている。両手剣なのはリーチを埋めるためなのかもしれない。

 でも、そんな思惑を鼻で笑うように大柄な男性は長槍と大盾を持っている。リーチの差がありすぎだろうな。


 小柄な男性は肩に両手剣をかつぐようにして持ち、大柄な男性は左手に持った大盾を前に突き出し、長槍を右手にかまえる。

 小柄な方が盾の無い側に大きくゆっくりとまわりはじめながら、様子を見る。

 これまでの2戦で油断できないことはみんなわかっている。だから二人とも慎重だ。


 大柄な方は牽制するかのように軽く槍を突き出すが、届かない。小柄な方は踊るようなステップで後ろに避ける。

 間合いの取り方を見ても、この人はできる人なんだろうなと思う。


 でも、相手も弱そうではないし、何よりもこのリーチ差は絶望的だ。

 盾の無い側で相手が突いたところを切り込むくらいしか良さそうな戦法は思いつかないが、このリーチ差だとそれだって難易度高すぎる。


 膠着状態が続く中、それを打ち破ったのは小柄な男性の方だった。

 腰の短刀に手をやると、それを相手に手裏剣のように放る。

 相手は大盾を持った腕を伸ばし、盾で叩き落とす。

 フェイントにもならないと俺が思った瞬間、小柄な方は右手を前に突き出し、虚空にある何かを引き戻すような動作をした。

 触れてもいないはずの大盾が引っ張られ、大柄な方がバランスをくずす。

 多分、念力みたいな技なんだろう。今度は槍の方に右掌を突き出すと今度は押されたように槍を持った手が開く。

 これまで槍と大盾で全くスキがなかった身体の正面があらわになる。

 あらわになった正面に両手剣を担いだまま突進すると、大きく相手を打ちすえた。

 袈裟懸けさがけに切られた相手はうめき声をあげながら膝をついた。


 「それまで!」


 「フォースとともにあらんことを」

 小柄な方がどこかできいたセリフをぼそっとつぶやく。

 あんな技使えれば、そのセリフ言ってみたくなるよね。

 わかるよ、でも言うなら、もっとハキハキと言わなきゃ。

 自分だってできそうもないことを考えながらじとーっと見てたら、恥ずかしくなったのか、赤くなってうつむいちゃった。

 あ、なんか、ごめん。気持ちわかります。俺も好きですよ、あの映画シリーズ。


 で、四戦目、モヒカンが俺に前出ろとジェスチャーしている。

 もうちょっと後が良かったなぁ……。

 相手は漆黒の左ジェットブラックレフトの中二病氏みたいだ。

 こんなファンタジーバトルとか出たくないです。

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