24 絶叫

 夕食後、のんびりくつろいでいる時間に、突然警察がやってきた。

 青ざめた顔の親父はあっという間に拘束され、おふくろは警官にくってかかって取り押さえられる。


 おれはどこか冷静に、父さん、逮捕されるようなこと、したの? と小さくつぶやいた。

 その声はおふくろの泣き叫ぶ声にかき消された。


 業務上横領罪。


 告げられた親父の罪名におれは、殺人とかじゃないんだ、よかった、って思った。


 けれど、全然よくなかった。


 逮捕者を出した家に世間は冷たい。おふくろは人の目を極端に怖がって外に出なくなった。


 親父は小さな会社の社長だったから、会社が傾くことで雇っていた人達への補償とかの手続きでおふくろは一気に疲弊した。弁護士任せにしたけれど、その費用もどこから出るのって感じだったらしい。


 学校が夏休みだったからおれが家の用事をして、おふくろは部屋にこもりがちになった。


 悲しいし苦しいからだろう。

 そっとしておいた方がいい。

 そう思ってたから、発見が遅れた。


 夕食の準備をして、おふくろの部屋に入ったら……。

 手首から大量の血を流してるおふくろが、うっすら笑みを浮かべてベッドに横たわってた。


「……母さん!」


 絶叫した。


 一目で助からないと判る、というかもう死んでるだろうおふくろを揺り起こそうとした。




「――ああぁっ!」


 自分の声で、目が覚めた。

 ったく、これだから体調くずしたりするの、嫌なんだよ。

 基本的に夏は好きだ。けれど、時々こうやって過去のことを夢に見るから、嫌いだ。


 夢を見たくないから、とことん疲れて睡眠時間も少し削って深い眠りに落ちるように、なんて試したこともあったっけな。


 今ではそこまでする必要もなくなったけど、きっとすっぱり夢を見なくなる日もこないんだろう。


 人はつらいことは忘れるようにできてるっていうけど、……これはおれの中で、忘れたくない記憶でもあるのかもしれない。

 復讐のため。“カズ”への怒りを忘れないように。


「リュークさん、大丈夫ですか?」


 ベッドの上に起き上がってたおれを見て巡回の看護師が声をかけてきた。


「あ、うん、大丈夫。同じ姿勢でずっといたらつらかったみたいで、ちょっと起き上がってた」


 笑顔を返して、横になる。


「おれが寝付くまで手を握ってたりしてくれたらもっと大丈夫かなー」

「はいはい。鎮痛剤打ちましょうか」

「華麗にスルーしたっ」

「あら、元気そうですね」


 くすくすと笑う看護師さんに弱めの鎮静剤を打ってもらって、今度は朝までぐっすり眠った。

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