29 揃える
静かだけれど無言ではない。
アウリオンを取り巻く人達の反応はまちまちだ。
全体的には、アウリオンを異世界人とみなして――実際そうだが――戸惑いやそれに似た感情をあらわにしている人が多い。
助けられた感謝もあるのだろうが、それよりも「何者だ、あいつは」という雰囲気だ。
「リオン」
そんな人達の間から、
彼女が来ただけでアウリオンはほっとする。
「蒼の夜だったんでしょう? リオンが魔物をやっつけてくれたんだよね」
新奈が明るい口調で言う。
「やっぱりあなたはすごいわ。ありがとう」
声がいつもより少しだけ大きい。新奈が周りの雰囲気を変えようとしてくれているのが伝わってくる。
彼女のおかげか、周りの人達の表情が少し和らぐ。
だが。
「その人、異世界人、なんだよな」
誰かが放った一言でまた場の雰囲気が硬くなる。
「蒼の夜の原因になってる世界の人じゃないの?」
「そいつの世界のせいなのか」
さらに恐怖をあらわにした言葉が人々を怯えさせる。
「違――」
「俺は、異世界から来ました」
否定しようとする新奈を遮ってアウリオンは周りに聞こえる声で告げた。
「リオン……」
心配そうな新奈に柔らかく笑って、アウリオンは自分達を遠巻きにする人達を見回す。
「俺は異世界人です。けれど、蒼の夜がおこる原因と言われてるエルミナーラ人でもない。俺は蒼の夜に巻き込まれてここに来ました。元いた世界に帰る手段がないんです」
嘘ではないがすべては言わない。
帰るもなにも、本当は元いた世界は滅んでいる。だがそれを言うときっと人々はより強い恐怖を感じるだろう。
「だから、俺はここで、地球で、蒼の夜からみんなを守るために戦いたい。どうか、俺がここにいるのを認めてくれませんか」
本当は、お隣の三兄妹の両親にそっと告げようと思っていた言葉だ。まずは地盤固めをして、と思っていた。
アウリオンの真剣な声と言葉に、周りの人達は困惑している様子だ。
それはそうだろう。
誰もアウリオンの言ったことの真偽を確かめるすべはない。なので肯定も否定もできないのだ。アウリオン自身にすら、証拠となるものは何もない。
今はこれ以上言えることはない。
アウリオンはかかとをそろえ、姿勢を正して深く頭を下げた。
数秒して顔を上げ、新奈を見た。
泣き出しそうな顔をしていた。
「行こう」
短く告げて、新奈を促す。
彼女は一生懸命笑みを浮かべてうなずいた。
「どうして、異世界人だって言っちゃったの?」
部屋に戻って、新奈が尋ねてくる。
そこに責めるような響きがないのが救いだった。
「遅かれ早かれ、ばれると思ったから。変にごまかすよりは最初から認めておいた方が心象がいいかな、って」
「……うん、そうかもしれないね」
きっと蒼の夜が起こった直後だったから、みんな困惑していたんだ。
時間が経てば、アウリオンに助けられたことをきちんと理解してくれるよ。
新奈はそう言ってくれた。
だがアウリオンはそこまで楽観視していない。
もしも、もしも自分だけではなく新奈にも人々の中傷の目が向くようなら。
……俺はここにいない方がいいんだろうな。
数日前とはまったく真逆の覚悟を、アウリオンは決めねばならなくなった。
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