22 メッセージ
はじめはちょっとした違和感だったが、徐々に大きくなってくる。
呼びかけてくるような、声。
これは、まさか。
アウリオンは動きを止めて、声に集中する。
『どうか、こちらに戻ってきてください』
アウリオンが意識したからだろうか、声はしっかりとした言葉になった。
聞き覚えのある声だ。
『誰、だ』
強く念じてみる。
『あぁ、よかった、声が届いたのですね』
ほっとするような声音で、相手は名乗った。
アウリオンをエルミナーラに召喚した神官の一人だった。
『あなたがそちら、地球というのでしたか、そちらの世界に転移してしまってから、ずっとメッセージを送り続けていたのですが、やっとお話しすることができました』
無邪気にも聞こえる神官の声にアウリオンは思わずため息を漏らした。
神官が言うには、地球とエルミナーラがつながりやすくなっているのは確かなようだ。
『それは、俺がこっちに来てしまったからか?』
『いいえ。あなたがそちらに行ってしまったのは初期の事例ではありますが。お聞きした状況ですと、原因は魔物にあるように思います。あなたがそれに着いて行ったという形ですね』
現在、地球とエルミナーラは意図的に世界を繋げることに成功している。人口的に「蒼の夜」と似た空間を作るのだ。
エルミナーラの魔物が地球に来てしまうなら、その問題を解決しなければならない。
なので地球側からエルミナーラに戦える者をよこしてくれるという。
『地球からこちらに来る人達を取りまとめている組織があるそうですね。そこから、あなたもこちらに戻ってきていただけないでしょうか』
真摯な顔でついて来てほしいと言った律を思い出す。
戦うすべを持たない人を守るために戦うことは嫌ではない。
しかし。
ずっとここにいていいと言ってくれた新奈に、そうしたいと思っている自分自身。
うなずくことはできなかった。
『考えさせてほしい』
律に返したのと同じ答えを返す。
『あなたが元の世界からこちらにやってきた経緯が、お話してくださったとおりだとするなら、あなたがこちらに戻りたくないという心境は理解できます』
神妙な声になった神官が心底アウリオンを案じていると察せられる。
『ですが、短期間で魔法を使いこなし、剣技にも長けているあなたは、間違いなく我々にとって必要な存在なのです』
そんなふうに言われても困る。アウリオンは黙ったまま相手の言葉を流した。
『それに、地球にこちらの魔物が行くのがこちらの原因であるのなら、あなたが戦うべき場所は、地球ではなくエルミナーラなのではないですか?』
はっとした。
彼の言うように原因を絶てるなら、それに越したことはない。
『どうか、よく考えてくださいますよう』
よろしくお願いしますと挨拶をして、声は途切れた。
戻りたくない。
しかし、自分には弱者を守る力がある。それを、使うべき場所で使わないのはひどく我儘なような気もする。
ただの感情論ではなく、しっかりと考えなければならない時が来たのだろう。
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