15 なみなみ

 今日の夕食は少し豪華だった。

 いつもより値段の高い牛肉のステーキとサラダ、おまけに小さなケーキまで出てきた。


「今日、何かの記念日?」

「うん、誕生日」

新奈にいなの?」

「うん」


 新奈がニコニコと笑うのに、しかしアウリオンは少し不満だった。


「どうして言ってくれなかったんだ」


 事前に知っていればプレゼントぐらい考えたのに、というと新奈はかぶりを振った。


「だからよ。余計な気を使わせたくなかったの」

「同居させてもらってるのに、部屋主の誕生日も祝わせてもらえない方が余計に気を使うよ」


 反論すると、新奈はまた笑う。


「今年はこうやって部屋で一緒にお祝いしてくれるあなたがいるから、それだけで十分よ」


 大学に入ってから、昼間に友人に祝ってもらうことはあっても夜はこの部屋で一人きりだ。ちょっと寂しかったと新奈は言う。

 自分がいることで新奈が喜んでくれているなら、それは嬉しいことだとアウリオンも少し気分を持ち直す。


「ってことで、今日はお酒も飲んじゃうよ。リオンも付き合ってくれるでしょ?」

「もちろん」


 グラスに並々とつがれたフルーツ酒で乾杯して、ケーキを食べた。


 新奈は、いてくれるだけでと言うが、なにかできないものかとアウリオンは考えて、そうだ、と思いつく。

 新奈に紙とペンを借りて、魔法陣を二つ描く。


「これは何の魔法陣?」

「危険感知と、こっちが防御」


 危険感知は持ち主に害意を持つ者が近づくと発光して知らせてくれる。防御の魔法陣は言葉通り、攻撃を受けた時のダメージをやわらげてくれる。


「ニュースを見てたら物騒な事件も結構多いみたいだから」

「わぁ、頼もしいお守りね。ありがとう。これ、持ち物の中に入れてても大丈夫?」

「あんまり紙にしわを寄せたりしなければ」


 どこにしまおうかなとあれこれ探して、結局、ハンドバッグの内ポケットに入れることにしたようだ。


 嬉しそうな新奈の顔に、温かい気持ちに満たされるのを感じていた。

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