14 幽暗
今日は
彼女が帰ってくる時間に駅に迎えに行くとして、その前に買い物を済ませておくことにした。
薄い色のサングラスと帽子でできるだけ目と髪を隠す。
自分が奇異の目で見られるだけなら少々居心地が悪いぐらいで済むが、一緒に住む新奈にまで変なウワサがたってしまっては、彼女までここに居づらくなってしまう。恩を仇で返すわけにはいかない。
新奈が書いたメモ通りのものを買って、アウリオンは夕闇の町を歩く。
初めてここに来た時と似たような空模様だ。
あの時は、新奈のアパートの近くの竹林に出てきたのだった。
魔物が新奈に危害を加える前に退治できてよかった。
そういえば、魔物を斬ったら消えたんだった、と思い出す。
エルミナーラで魔物を倒した時は、死体はその場に残っていた。
異世界だからだろうか。元々存在を許されていないものだから、命がなくなると体も消えてしまう、といったところかもしれない。
アウリオンは考えながら歩いた。
何か、胸にざわつくものを感じた。
ここに来た時のことを思い出していたからだけではない。
危険な気配がする。
アウリオンは軽く目を閉じて集中し、空気に漂う魔力を探す。
あっちだ。
サングラスをはずし目を開けて、魔力らしきものを感じた方に顔を向ける。
空が、急速に暗くなった。しかも、一部分だけ。
間違いない、あの現象だ。
今戻るか? 新奈に何も言わず?
いや、とアウリオンはかぶりを振る。
彼女に何も告げずエルミナーラに戻る気はない。だがあの蒼い空の下には、おそらく魔物がいる。何とかしなければならない。
意を決し、走り出した。
藍の空の下に到着しなくても、感じる魔物の気配。
これは、マナポケットから剣を出さなければならないかと思った時。
異質の魔力に似た力を感じて、思わず足を止めた。
膨れ上がるエネルギーは、やがて四散した。魔物の気配も消えていく。
同時に、蒼色の空は元のオレンジ色に戻っていく。
魔物が倒されたであろうことは判るが、一体誰が?
またエルミナーラから誰かが来たのか?
アウリオンが現場であったであろう場所に到着した時、倒れていた数人が体を起こした。
一人、初めから立っていた男がいる。
年はアウリオンより少し上だろうか。彼の服装はビジネススーツ。地球のものだ。鎧や武器もない。
男がアウリオンに目を向けてきた。
思っていたより柔和な顔を、軽くかしげた。あれは会釈というしぐさだ。
アウリオンに挨拶をしてきたということは、接触してくるのだろうかとアウリオンは緊張した。
だが彼は何も言わず、アウリオンに近づいてくることもなく、その場をそっと離れていった。
彼が魔物を倒したのか?
地球人にも魔物と戦うすべがあるのだろうか? それとも彼は地球人に見えて実はエルミナーラ人なのか?
暗さが少しずつ増す住宅街を、アパートに向かいながらアウリオンはますます深まる謎に頭を悩ませた。
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