07 天の川
今日は
柔道で黒帯持ってるぐらいなんだから大丈夫よと新奈は言うが、そういう問題じゃないとアウリオンが押し切った。
彼女に何かあっては困るからだが、ちょっと外を散歩してみたいのも本音だった。
駅で無事合流し、二人で並んでアパートまでの道を歩く。
「そういえば今日って七夕なんだよ」
「タナバタ?」
「離れ離れになって年に一度しか会えない夫婦が会うことを許された日なのよ」
「神話?」
「そんな感じ」
言って、新奈は空を見上げる。
アウリオンも釣られるように空を見た。
星の集まりを川に見立てた天の川を渡ってその夫婦は会う、と新奈が言う。
だが外灯がそこここにあるのでは、たとえ星空が綺麗に輝いていても見ることができない。
「珍しく晴れてるのに残念」
「いつもは雨なのか?」
「梅雨だから」
「雨が多い季節、だっけ?」
「うん。織姫と彦星のうれし涙だ、なんて言われてるわ」
それじゃ今年は嬉しくなかったのか? などと頭に浮かんだが口にするほどアウリオンは無粋ではなかった。
「山とかに上ったら、もっときれいに見えるんだけどね」
新奈は残念そうに言う。
「昔はもっときれいに見えたんだって。便利さを手に入れて、自然との距離があいちゃった感じかな」
ストラスもそうだった。適度に発展していった結果、自然が減ってきていた。
アウリオンは「どこも似たようなものか」とつぶやいた。
「それでね」気を取り直したように新奈はアウリオンに笑顔を向けてくる。「日本じゃ七夕に願い事を書いた短冊を笹につるすと願い事が叶うっていうの」
随分気前がいい話だなとアウリオンは笑った。
「実際にかなうことは、まぁ、少ないんだろうけどね」
「そうだろうなぁ」
「でもロマンチックじゃない? リオンは、何を願いたい?」
彼女は二人でいる時もアウリオンをリオンと呼ぶようになった。人前で名前を呼ぶときに間違えないように、だそうだ。
別に名前に強いこだわりがあるわけではないけれど、ちょっと寂しい気もする。
「願い事か」
アウリオンはつぶやいた。
願って叶うなら元の生活に戻りたい。
けれど、もう無理なのだ。
「俺の願い事は、絶対に叶わない」
思わず声になって漏れた。
「どうして?」
新奈の問いかけに、はっとなったが吐いた言葉は戻らないし、彼女が理由を尋ねてきたことは自然の流れだ。
アウリオンはひとつ息をついて、話し始めた。
「願うなら、エルミナーラに召喚される前に戻りたい。けど、俺が元々いた星はもう、ないんだ」
新奈が息をのむのがはっきりと聞こえた。
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