第3話 見えない何か
俺は周囲を見回した。一面に広がるタバコの葉。それ以外は何も見えない。
でも、何かがいる。俺に襲い掛かろうとする何かが。
俺は取り合えずその畑を突き抜けて隣の〇〇さんちに行く体を装った。何かがずっと俺の後を付けて来る。中腰で、ものすごい速さで動き回る。
ずっと移動している・・・葉っぱの間を。
でも、それが人間だと言うことがわかる。
俺も葉の中で屈んだ。
じっとして、その走り回る何かを待った。
俺がいなくなると、あちらはびっくりしたのか、ずっと走り回ってむしろその存在が目立ってしまっていた。だんだん俺に近づいて来た。
鎌なんか持っていたらどうしよう・・・。
ササ・・・ササ・・・ササ・・・・
カサ・・・カサ・・・・カサ・・・
すると、それがはっと俺の目の前に現れた。
中学生くらいの女の子だった。
意外だった。
すごくきれいで、色っぽかった。
目が黒目勝ちでうるんでいて、唇は隙だらけの女のように半開きになっていた。
見たこともない子だった。
色あせてボロボロの服を着ていた。
知的障害があるんだろうか。
「お兄ちゃん?」
「え?」
「お兄ちゃんでしょ?匂いでわかった」
その子は言った。
「公子?」
「まさか・・・こんなに近くにいたなんて・・・ずっと探してたんだぞ」
実際はそうじゃないけど、俺は公子にいい顔をしたくて言った。
「何で帰ってこなかった?」
「怖くて逃げられなかった」
「今は角田さんの所にいるのか?」
「うん」
「学校行ってないのか?」
「うん」
「角田さんの所で何してるんだ?」
「畑手伝ってる」
「そうか・・・それだけ?」
「あとは、当主様夫婦のお世話とか、旦那様と坊ちゃんたちの世話とか、奥様の世話とかいろいろ」
「金はもらってるのか?」
「全然」
「逃げよう」
「逃げたら殺される。逃げたら殺すって言われてるから」
「今はどうして外に?」
「畑見に来た」
「今のうちに一緒に逃げよう」
「逃げたら殺される」
「とにかく町まで逃げよう。町まで逃げたら、何とかなるから。今から行こう」
俺は財布に3万持っていたからそう言った。
後のことは考えない。
「死にたくない」
「大丈夫だ。逃げられる」
「俺は町までの近道を知ってる。多分、誰も知らない道だ」
「犬がいる。犬が追っかけて来る」
「犬が追っかけてきたら殺す。逃げよう。町の警察行こう」
公子は観念したようだ。もう、死んでもいいという顔をしていた気がする。
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