第12話 ダンジョン攻略準備2
太陽の光が入らない暗い部屋でノアスは寝っ転がっていた。天井に視線を移すと不気味なシミが顔の形で嘲笑っている。次に視線を移したのは、右手に持つペンダントだ。
イースから授かった大切な形見。
――もし……あいつに会ったらよ、仲良くしてやってくれ。
イースはその言葉をノアスに伝えた。
あいつ。とはきっとイースとラリムの子供の事だろう。
耳にたこが出来る程、子供の話を聞かされたノアスであったが、どんな容姿をしているのかつい最近まで知らなかった。何故知ったかというと、
ノアスがペンダントをいつものように眺めているある日、一つの仕組みに気づいた。それはペンダントの中に納まっていた小さな写真を映す仕組みである。その写真に写っているのは若い頃のイースとラリム。そして幸せそうに笑い二人に抱かれている青髪の幼女。
多分昔に撮った写真だろう。そのペンダントを、写真をイースはノアスに託して、あいつと会ったら仲良くしてくれと言ったのだ。
今まで気づかなかったのは、心に余裕が無かったから見落としていたのだろう。
「本当自分には失望する」
ノアスは写真に写る幼女を見て現在何歳なのかを大まかに想像する。正確な年齢までは判らないが、多分ノアスやエリィと近い年ごろだと思う。
そしてあの女……エリィが呼んだリーリスという女もまた若い年齢であった。それだけじゃなく、イースやラリムと同じ青髪であった。リーリスの姿を見た時、心臓を握られたような感覚にノアスは陥った。
そんな奇跡が起こる訳ない。と何度も言い聞かせるが頭から離れない。
「どうにかして、確かめないとな」
ノアスは生きる事を二人に託された。ノアスの目標の一つはあの階層主を倒すことであり、もし可能なら欠片を使って二人を蘇らせることである。しかしそれ以前にやらないと行けない事がノアスにはあった。
それは二人の子に会う事だ。
その目的を達成する為にもノアスは、リーリスの事を知らなければならない。
「しかしどうやって」
「おーーーい。ノアスくーん!!」
「……」
「ノーアースくーん!!」
宿の外から最近聞いた声が聴こえたので、ノアスは無意識にも口を結んだ。要するに居留守を使ったのだ。しかし居る事を知っているかのように女は何度もノアスの名前を叫び続ける。
「ノアス君。いないの――?」女が最後にそう叫んでから急に静まった。どうやらいないと分かり去って行った様子だ。「いるじゃん!!!」
「ブブォォォォ!?!?!?」
一息ついたノアスが瞼まぶたを開くとそこに女が笑って立っていた。ノアスは一瞬思考が止まり、そして驚きの声と共に大量の唾が外の世界に旅立って行く。
「うわ。ちょっと、ノアス君。なにするの!?」
「お、お前こそ。何でここにいんだよ!? さっき外にいただろ!」
確かにエリィはさっきまで宿の外で叫んでいたはず。しかし瞬きの一瞬で今はノアスの目の前に立っている。
「ふっふっふ。君の安堵の込もった吐息が聴こえたからね、入らしてもらったよ」
「酒屋の時もそうだけど、お前、想像よりもやばい奴だな」
謙虚そうに見えて意外と強引で、清楚系かと思ったら意外とぶっ飛んでる。エリィという人物にノアスは理解が追いつかない。
「そんなことないよ」
「出てけ。お前との約束は果たしたぞ」
「話だけでも聞いてよ」
一緒にダンジョンに潜ろうという約束を果たしたノアスにとってもう関わる理由はない。なのでノアスはエリィを追い出そうとする。
「で、話なんだけど」
「俺の言った事聞こえなかったのか?」
「一緒にさ、ダンジョン攻略行こう!」
「断る」
「今回は八階層だよ。高階層だよ?」
「断る」
「ちょ、ノアス君が居てくれると凄く助かるんだけど」
「断る」ノアスはエリィの背中を押して無理やり部屋から追い出そうとする。「じゃあな」
「わたしの友だちのリーリスもいるんだ。これを気に知り合いを作るのも良いと思うよ」
ピクンとエリィを押す手が止まった。
「どうかな、別に仲良くしなくていいから。ダンジョン攻略に協力してくれれば」
ノアスは考える。繋がりを持つ事を嫌うノアスにとって、小パーティーでのダンジョン攻略何てもってのほか。それに正直言って邪魔だ。独りなら気にかけることなく自由に戦えるが、二人以上ならば気を遣うことになる。エリィのような実力者ならまだして初挑戦のダンジョンに複数のメンバーで行くとなると、足を引っ張る者がもちろん出る。
普通なら承諾する理由など無いのだが、今回は違う。リーリスも攻略に加わっているのなら何かを知れるチャンスである。
チャンスを逃すことは余りにももったいない。
「一つ条件がある」
「なに?」
「俺は俺なりのやり方でやる。連携とかチームプレイは期待するな」
「もちろん! リーリスにも伝えとくね。じゃあ後日詳細言うね。またね」
エリィはそう言うと手を振ってから宿を後にした。
「なんか、あいつのペースで物事が進んでる気がする」
ノアスは部屋の入り口に視線を向けながら渋い顔を浮かべた。
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