好きな人

朝、目覚めると台の上にロールパンと牛乳が置いてあった。


私は、それを食べる。


「いってきます。」


誰もいない家に告げて、出る。


「ひーちゃん、おはよう」


7時半には、いつもあーちゃんが家の前で待っている。


「おはよう」


「ねぇねぇ、塾で出会った勝君ね。そればっかりだから、別れちゃった」


「あっそう」


あーちゃんの彼氏の話しには、まるで興味がない。


容姿が凄く可愛いとか凄く綺麗ではないけれど、男心をくすぐる要素をたくさん持っている。


いわゆる手に入りそうなアイドルって感じだね。


低身長で、どこにでもいるような普通の子。


「ねぇ、ねぇ、ひーちゃん聞いてる?」


私の腕を掴みながら上目遣いに覗き込む。


駄目だ、ドキドキし過ぎて鼻血が出そうだ。


「聞いてるから」


「勝君ね、そればっかりなの。わかるでしょ?」


「それって、何?」


「だからぁ」


「いい、いらない」


私は、あーちゃんの目を見つめなかった。


聞きたくない。


私の気持ち知らないからって、何でも話すのをやめて欲しい。


「どっかに、いい人いないかな」


「あーちゃんなら、すぐに見つかるよ」


二度と見つからないで、欲しいけど…。


「そうかな?そうだよね。ひーちゃんも、彼氏見つけなきゃね。じゃあ、また休み時間にね」


学校につくと一組の教室に、行ってしまった。


「おっはよ、しーちゃん」


肩を叩かれて、ビックリして振り返った。


「おはよう、香月君」


「だから、王ちゃんだって」


「お、王ちゃん」


そう言った瞬間、誰かがやってきた。


「おはよう、おうっち。」


彼に肩を叩かれて、雰囲気が変わった。


この人が、好きな人だ。


「あー。かなめん、おはよう」


「なーに、おうっちの彼女?」


「えっ?違う違う。友達だよ」


「そうなの?こんな可愛らしいのに」


「もう、いいからいいから」


「じゃあ、休み時間に」


そう言って、彼はいなくなった。


「ちょっと、来て」


私は、香月君に手を引かれた。


「さっきのが、幼馴染みの千葉要ちばかなめ。俺の、わかるよね?」


「ああ」


「内緒だよ。わかった?」


「うん」


そんな話をしてると、声をかけられた。


「ひーちゃん、教科書貸して」


「あれ、しーちゃんの?」


「うん」


「じゃあ、俺、行くから」


「うん」


香月君と入れ違いに亜美がやって来た。


「ひーちゃん、彼氏出来たの?」


「違うよ」


「めちゃくちゃ、イケメンだったよ」


「だから、違うって」


「そうなのー。国語貸して」


「あっ、うん。」


私は、鞄から国語の教科書を出して渡した。


「ありがとう、じゃあね」


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り響いて私は、急いで教室に戻った。


授業が終わって、休み時間に亜美がやってくる。


それを繰り返して、一日が終わった。


「ひーちゃん、帰ろ」


「うん」


「しーちゃん」


「えっ?」


ダブルブッキングみたいになってしまった。


「おうっち、帰ろう」


「あっ、しーちゃん。あのさ」


「えっと」


「イケメン二人組、一緒に帰ります?」


「いーね」


「かなめん」


「いいじゃん」


何故か、四人で帰る事になってしまった。


「何か、用だった?」


「うん、文集の内容、一緒に考えようかなーって」


「ああ」


千葉君と亜美は、楽しそうに話していた。


「しーちゃん、明日時間ある?」


「うん、いいよ」


「やったー。連絡先、教えてよ」


「うん」


私は、連絡先を教えた。


コンビニで、アイスを買ってみんなで並んで食べる。


それから、私達は急速に仲良くなっていった。


私は、卒業文集で告白をする為に香月君と、公園のベンチで文章を考えていた。


そして、季節はあっという間に流れて、卒業式まで後一週間を迎えたある日だった。



「姫ちゃん、俺と付き合ってください。」


私は、校舎裏に千葉君に呼び出された。


「あの、それは…。出来ません」


「やっぱり、おうっちが好きなんだよね」


「それは…。」


「知ってるよ。俺達と別れた後いつも二人で会ってたの」


「ごめんね」


「でも、友達ではいてよね」


「うん」


千葉君は、そう言っていなくなった。


教室に、戻ろうとした時だった。


「王君、私と付き合ってくれない?」


亜美の声がして、足をとめてしまった。


「ごめん、俺は」


「ひーちゃんが、好きなの?」


「いや、そうじゃ」


「何で、あの子、嘘つきだよ。人の悪口も平気で言っちゃうし。」


「しーちゃんは、そんな子じゃないよ」


「王君は、知らないでしょ?私は、幼馴染みだから知ってるんだよ。嘘つきだよ。色目使って、私の彼氏誘惑したり」


「そんな事しないよ。」


これ以上、聞きたくなくて私は、その場から逃げた。


あんな事、言ってるって知らなかった。


私は、空き教室に入った。


ブー、ブー


「はい」


『しーちゃん、どこ?』


「ちょっとね」


『明日、提出だから書こう』


「もう、いいかな」


『何で?』


「何となく」


『どこにいるの?行くから』


「わかんない。空いてる所に入った」


ガラガラ…


「みっけ」


香月君は、私をすぐに見つけた。


「早いね、泣く暇ないじゃん」


「何で、泣いてんの?」


「さっき、見ちゃった。王ちゃんがあーちゃんに告白されてるの」


「聞いちゃったの?」


「全部じゃないよ」


「あんな言い方、酷いよな」


香月君が、私を引き寄せて抱き締めてくれた。


「告白するのやめる?」


「要君に告白されたよ」


「知ってるよ。しーちゃんの事好きだって」


「でも、要君はあーちゃんみたいに王ちゃんの悪口は言ってなかったよ」


「やめちゃう?」


「伝えるよ。きっと、会わなくなるから」


「そうだね」


香月君は、泣いてる私を暫く抱き締めてくれていた。


その日は、二人でミルクティーを飲みながら帰った。


次の日、私を迎えに来る。いつものあーちゃんの姿がなかった。


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