母の秘密

美笠蓮みかされん君と浅倉さんが、仲良くなっているのに気づいていた。


でも、気づいていないフリをしていた。


浅倉さんにとっての、美笠君は、私にとっての下川原君だとわかっていたからだった。


そして、何故か私はいじめを受けているらしい。


男子トイレから出てきた、下川原君は、「さっきの話しは忘れてくれ」と言った。


コインランドリーに戻ると、靴は洗い終わっていて。


下川原君は、乾燥をかけていた。


「下川原君は、何故呪文みたいに唱えているの?」


「その方が記憶しやすいから」


「へー。」


「百瀬さん、テニス嫌いだって両親に言わないの?」


「えっ?」


「朝練、いやいやしてるだろ?」


「見てたの?」


「見てたわけじゃない。窓の外を見てたら、いたってだけ。」


そうだよね。下川原君は、私に興味なんかないよね。


「あのさ、何で体育してないの?」


「ああ、兄貴が居たんだ。三つ上の」


「うん」


「学校の体育の授業中に、跳び箱して頭から落ちてさ。病院行ってたいした事なかったんだけど…。次の日、バスケ部の朝練来る途中で事故ってさ。今、車椅子なんだよ。それから、母親はヒステリーおこして、運動全般禁止だって言って、分厚い参考書投げつけられて。今にいたるって感じかな」


「それって、下川原君は、勉強が好きじゃないって事?」


「嫌いだよ。」


下川原君の告白に私は、固まってしまった。


「嫌いだったの?」


楽しそうにしてると思っていた。


「小4から勉強漬けだよ。目まで悪くなって。俺は、サッカーや野球がしたかったよ。あの、キラキラしたのに憧れてたよ」


下川原君は、そう言いながら眼鏡を拭いた。


「下川原君が、キラキラしてるのちょっと想像つかない。」


「ハハ、百瀬さん。俺には、ハッキリ言うよね。」


下川原君は、靴を乾燥機から出して匂いを嗅ぐ。


「や、やめてよ。」


「あっ、ごめん。生ゴミの匂いしてたらと思って。はい、どうぞ。もう、大丈夫だよ」


「ありがとう」


「全然いいよ。気にしないで」


「下川原君、浅倉さんには」


「言わないよ」


下川原君は、笑ってくれた。


私は、下川原君と別れて家に帰った。


「ただいま」


「だから、駄目だって」


「お母さん…………。」


「また、お前か、もうちょっと空気読んで帰ってこいよ。チッ」


「また、明日ね。篠君」


「はいはい。ほら、家庭教師」


「あっ、はい」


部屋に入る、篠君はお母さんが中1の時につけた家庭教師だ。


「なあ、理美?好きな人は?」


「近いです。」


「お前のせいで、わかるよな?」


私は、首を横にふった。


コンコン


「ケーキと珈琲。理美は、オレンジジュースね。」


「ありがとう」


「やだ、篠君。理美の前じゃ、駄目よ」


気持ち悪い。


「じゃあ、また明日」


「はいはい」


母が出ていった。


「理美、明日はもうちょっと遅く帰ってこいよ。でなきゃ」


両頬をつねられた。


「わかってるよな?姉ちゃん、どうなったか?見たよな」


「わかった。」


「イイコ、イイコ」


私は、篠君に頭を撫でられた。


「時間だから、帰るわ」


篠君は、家庭教師を終えて帰っていく。


入れ違いで、父が帰宅してきた。


頭の中で、またお喋りが始まる。


5つ上の姉は、高校に行かず男と駆け落ちした。


「はい、ご飯食べましょう」


「いただきます」


あんたが、こなきゃ。


この家は、まともだったんだよ。


血が繋がってると思うだけで、吐き気がする。


「理美、そんな顔で母さんを睨み付けるんじゃない。」


「また、頭の病気が出ちゃった?」


「ごめんなさい」


食事を半分残し、私は部屋に入った。


母親は、私が4歳の時に男と駆け落ちした。


何故か、その三年後、私と姉を小学校で待ち伏せして、一緒に家に帰ってきた。


父親は、とても喜んだ。


女の子二人を育てるのは、大変だったから帰ってきてくれて助かったと話した。


仕方なく、捨てたあの人を受け入れた。



それから、二年後。


中学の同級生から、百瀬の母親をカラフルなマンションで見つけた。と姉が言われたので二人で待ち伏せをした。


本当に母が、出てきた。


当時、18歳の篠君だった。


「しっー。絶対にお父さんには内緒よ」


お喋りが好きな私は、姉に口止めをされた。


あっ、あれからかも。


脳内で、誰かが喋ってるのは…


コンコン


「はい」


「父さんだ」


「はい」


「理美、高校はどうするんだ?テニスの学校に行くのか?」


「まだ、決めていません」


「恵美が、出ていったきり顔も見せないから、理美は家に居て欲しい気もするんだけどな」


「また、答えが出たら話します」


「中学生になったら、より他人行儀になったね。前は、もっとお喋りだったのにね。」


「そうですね」


「学校では、もっと笑っているか?母さんに向けた目を友達にもしちゃいけないよ」


「はい」


「じゃあ、おやすみ」


父は、私の頭を撫でた。


父が、部屋を出ていって泣いた。


下川原君は、私の事を全て知ったらどう思うのだろうか?


私の頭の中は、またお喋りを始めた。


本当の事を父親に話せば終わるのだろうか?


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