彼の空 わたしの空

RIISA

彼の空 わたしの空

彼が北海道函館市からこの地に来たことは、友達の友達が言っていたか、風の噂かなにかで聞いて、知っていた。

法学部の彼は、常に成績優秀、先日書いた論文は優秀賞を受賞、おまけにルックスも良かった。

黄色い声援を浴びるような、アイドル的存在ではなかったが、他の学生や教授から一目置かれる存在であることは間違いなかった。


わたしには一体、何があるだろう。

何ができるのだろう。


故郷を離れて暮らしている彼、一度もこの地を出たことがないわたし。

優秀な彼、人並みのわたし。

容姿端麗な彼、平凡なルックスのわたし。


ある日偶然聞いてしまった、友人との会話。

「老若男女問わず法律を正しく使える人が増えて、みんながのびのび生きられるようになってほしい。」


わたしには、夢も目標も、それを叶える知性もない。


熱い志を持って過ごす彼、冷めた心で日々を消化しているわたし。

自分の想いを言葉で語れる彼、思っていることをうまく言葉にできないわたし。


同じ年齢で、同じ場所で、生きているのに。

わたしたちはこんなにも違う。

ぼんやりと心に浮かぶなにかを、わたしは形にできない。


春の函館は桜が有名だ。

リツイートされた彼のツイートには、故郷の桜の写真が投稿されていた。

空を埋め尽くすように、桜が咲いていた。

いや、この一面に広がる桜こそが、空なのか。

この人は、この綺麗なピンク色の空のもとで、生まれたのか。

わたしとは違う、この綺麗なピンク色の、空のもとで。

わたしはつくづく、この人とは違う。


それでも、わたしはわたしを続けなければならない。

いつもの通学路、電車の窓から見える景色も、いつもと変わらない。

でも、やけにスッキリして見える、雲一つないこの青空が、わたしの空だ。

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