銀髪最強吸血鬼に血を吸われながら死ぬまで生きる
根古水まくり
第一話 生きようよ
眩しい。
薄く開いた瞼から、光が差す。
「ん……」
「ここ……どこ……?」
体を起こし、周辺を見る。
周囲を室外機と窓が張り付いた壁と細い道、そして小さな夜空が囲っていた。
「本当にどこ……?ていうか……」
「私……誰……?」
自分が何一つわからないということだけを思い出した少女は不安になり立ち上がった。
少女の体に覆いかぶさっていた革のジャケットが重力に負けどざりと地面に落っこちて、ジャケットが地面にあるバッグをたたき中から物がこぼれた。
「これはわたしの……?」
「本、財布、スマホ……うわ、めちゃくちゃ割れてる……」
スマホの電源をつけようとしてみるがもちろん点くはずはなく、唯一自分の姿を確認できたくらいだった。
「財布は……」
財布には学生証だけが入っており、さっき見た自分の姿と枚宮晴乃の名があった。
「わたしは、枚宮晴乃……」
「って、言うんだっけ……?」
まだはっきりとわからない。自分の頭に霧がかかっているようだった。
何をしていいかわからずバッグの中にあった本を眺めてみる。月の光が頭上から降り注ぎ本に自分の形の影を作った。
「ん?これは……」
本の裏表紙には汚い字できりの、と書かれていた。
「きりの……?」
「誰だっけ……?」
「そこの君」
自分のはるか上から、落ち着いた輝きを放つ月の光のような声がした。
「えっ!?私!?」
声の主を探すように上を見ると銀の長い髪に紅い眼を持ったまさに絶世の美女がいた。
「君以外他に誰がいるというんだい?」
その美女は建物から飛び降り、一切音を鳴らさず着地した。
「私は君に聞きたいんだ。君は一体誰だ?」
「わ、私は……」
「わかりません……?」
女は大きな眼をぱちくりさせて、少し結んだ唇が限界を迎えたかのように横に裂けて大笑いした。
「あーっはっは!!なんだいそれえ!」
「自分が!分からないってぇ!はーっはっは!」
長い髪を巻き込んで女は笑い転げた。
「ふぅ、君は面白いな……で、君は誰なんだ?」
「いや、だからわからないんですよ。」
「えっ、冗談じゃないのかい?」
「はい」
そう答えると、女の顔つきが変わった。まるで獲物を捕らえた時の肉食動物のような獰猛さがあった。
「へぇ……じゃ、誰のものでもないってことか……」
「名前も分からないのか?」
「たぶん……枚宮晴乃だと思います……」
「晴乃か、いい名前だ」
「じゃあ、君は今から私の晴乃だ。」
「へっ?」
女は体に手を回して抱き寄せた。女の顔が目の前に迫る。
「わたしの名前は識瀬綾帆。吸血鬼だ。」
識瀬の口から尖った犬歯が覗いた。
「私今からどうなるんですか……?」
「殺したりしない、私のものにするんだ」
全くもって意味がわからないが、自分の体を抱く識瀬の力に勝てないことは分かっていた。
「君はどこも行くあてが無いんだろ?じゃあ、私と一緒に夜を生きようじゃないか」
「はい――」
「いただきまーす!」
返事を言い終わるより早く識瀬が首に噛み付いた。
「うっ……」
牙が皮膚を突き破って入ってくるのがわかる。だが、不思議なことに痛みはなかった。
脳をじわじわと多幸感が占めていき、何も考えたくなくなってゆく。
「ふぁ、あぁ……」
つい漏れてしまう声と、
識瀬が血を飲みこむごくり、という音だけが聞こえる。
少し経ってから飲み込む音が消えた。
識瀬が首から口を離して噛み跡を舐め、ため息をついた。
「はぁ、晴乃ぉ……」
「君、一体何者だ?」
また繰り返された質問に少し首を傾げる。
「えっ、だから分からないんですって――」
「君の血!異常に!」
「美味すぎるぞぉ!!!!」
「へぇ?」
「なんだこの味?普通の人間にしては苦味が強いし吸血鬼の血にしては美味すぎる……初めての味だ!」
「君は最高だよ……死ぬまで一緒にいよう!」
「それはわかりま――」
「おかわりぃ!」
また識瀬が首に噛み付いて、
意識が遠のく――
「あっ!吸いすぎた!」
識瀬が慌てる姿だけが隙間から見えた――
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