最果て
新天地を求め、広い宇宙の航海に出た私たちは、長い時間をかけて旅をしてきた。しかし、ひとり、またひとりと仲間を失い、とうとう私一人の旅となってしまった。時折、仲間のもとへ行こうかと考えたときもあった。しかし、仲間の夢である新天地を確かめるまでは死ねない。そう決起し私は旅を続けてきた。
いつの間にか髪は白くなり、顔にはいくつものしわが刻まれ、手指は枯れていった。このシャトルも同様で、不備があれば修繕し、だましだましの航海を続けた。故郷からの通信も途絶え、他の惑星も沈黙を続けている。かれこれ最後の通信から三十年は静寂だった。しかし、私はあきらめきれずに、メッセージの発信は欠かさなかった。
ある時だった、決まった方位から雑音を受信するようになった。
「こちらARK6-9N。聞こえましたら応答願います」
ひどいザッピングの中からきゅるきゅると電波音が聞こえる。かなり遠いようだが確実に応答している。私はそう確信し、進路を進んだ。
数日たつと相手の応答もだいぶはっきり聞こえてくるようになった。
「こちらARK6-9N。今日もよろしく」
『――。――ろし――』
しかし、残念なことに燃料が底を尽きようとしていた。自家培養燃料装置がとうとうお釈迦になってしまったのだ。使用した年数を考えれば当然と言えば当然だ。あとは太陽電池が頼りだが、このあたりは全くと言っていいほど星がなく、太陽どころか他の熱源惑星からの光も届かないような場所だった。
このまま進み続けて途中で燃料切れになるよりも、ブーストをかけ慣性で進んだ方が長く進めるだろう。宇宙空間は空気の摩擦もないし進み続ける。それに、ある程度近づいたら相手の船だか惑星だかの救助隊に保護してもらえばいい。
私は明日、決行することに決めた。
綿密に計算した進路と角度、そして方位は確実だ。距離も問題ない。しかし、通信は昨日と相変わらずぶつ切れだった。なので相手への救助信号は回線が開けるぎりぎりまで粘ることにした。
久しぶりに全エンジンに火が付いた。マニュアル通りに操作をすればあっという間に準備は完了。あとはボタン一つで一飛びだ。
シートベルトと安全装置を確認し一呼吸置く。そして、ブーストエンジンに点火した。
それからはあっという間だった。周りの惑星は消え、星一つない暗闇の空間だった。
速度が緩やかになり、機体が落ち着いてきた頃に通信を送ってみた。
「こちらARK6-9N。応答せよ」
『こちら――。応答――』
応答は大分クリアになっていた。私は救助信号を送ると同時に話しかけた。
「こちらARK6-9N。至急救助を頼む。燃料ももうない」
『こちら――――……。至急救助―――……い』
「そうだ、救助だ」
『そうだ、救助だ』
きゅるきゅると最後に聞こえた後は無音だった。
それよりも私は相手の対応について思うところがあった。なぜ、同じ言葉を繰り返すのだろう。
もしかしたら相手は未知の生命体で私を捕食するためにおびき出そうとしているのかもしれない。しかし、帰る燃料すらない。覚悟を決めるしかないのか。私は意を決してもう一度語り掛けた。
「こちらARK6-9N。救助信号が聞こえたら応答してくれ」
『こちらARK6-9N。救助信号が聞こえたら応答してくれ』
私の声が聞こえた。クリアな音だった。
そして、船首がこつんと何かにぶつかると、船は止まり、あとは静寂だった。
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