アルデナード小大陸冒険紀行

@unpaya80

第1話 白魔道士の杖


「もういっそ白魔道士じゃなくて戦闘職で登録し直した方がいいんじゃないですか?」

 赤毛の獣人がこんがり焼けた美味そうな肉を食べながら話しかけてくる。


「近頃はヒーラー専門を指定するような大規模な討伐依頼なんて少ないですからね。アルさんだって結局荷物運びとか肉体労働ばっかりしてるじゃないですか、そういうのを本末転倒って言うんですよ。だいたいルガディンなのに白魔道士ってどうなんですか?確かモンクの修行もしてましたよね?」


 男はルガディンと呼ばれる大柄な種族だ。同族は恵まれた体格を生かしパーティーの盾となる役割を果たす者が多い。一方赤毛の獣人はロスガルと呼ばれている。獅子のような顔立ちの獣人だが、魔法も戦闘も器用にこなすものが多い。


「随分簡単に言ってくれるけどさ。お前と違って戦闘の才能はないんだよ。一通りの修行はしたけれど、魔物の隙を見つけ技を出すのって正直めんどくさい。それに魔物の体液とかついたら嫌じゃん。」


 この獣人はロスガルの中でもさらに器用な部類に入る。依頼に合わせて盾役も戦闘職もこなすし簡単な討伐依頼ならヒーラーだってやってしまうのだ。


「あれ〜?『戦闘の才能はない』だなんて、なんかヒーラーの才能はあるような言い方してません?有能なら、どこかの討伐隊に固定メンバーとして誘われてるはずですよ?それにアルさん自体魔物みたいな体液してそう。」


「うるさい。白魔道士はグリダニアの精霊に認められないと修行することさえ許されない神聖な職業なんだぞ。魔物みたいな体液してる訳あるか、謝れ。」


「嫌です。謝りません。そもそも太古よりパーティーの癒し手は美少女かグラマーなお姉さんって決まってるんです。それが筋肉モリモリのおっさんだなんて許されるわけないでしょう」


「はぁ???ある研究によると呪文の発動は杖を振るスピードで決まるんです。したがって筋肉は無駄じゃない!謝れ!」


「それ本気で言ってるんすか?杖を振るスピードって……そんなの関係あるわけないじゃないですか。それよりアルさんの回復魔法、ベタベタするって噂になってますよ?」


「それこそデマやろがい。魔法にベタベタもサラサラもあるかい!謝れ!!」


「おかしいな。みんなヒールもらったあと体がベタつくって言ってますよ?」


「とにかく!白魔道士が頑丈で悪いことないでしょうが。多少の怪我ではビクともしないんだぞ。謝罪しろ!」


「癒される側の気持ちにもなって欲しいなぁ。モチベーションって重要なんですよ?戦果にも影響が出ます。

「誰が唱えてもケアルはケアルでしょうが!頑丈な方がいい!」


「っていうかアルさんが仕事にあぶれてる時点で既に答えが出てるんですよ?」


「うるさい!ばか!うんこ!!」


 テーブルを乱暴に叩くと、男は大きな足音を立てて店を出て行った。不毛な議論につきあってる暇はない。そろそろギルドから依頼が出てくる頃だ。今日こそまともな依頼を見つけないと本当に干上がってしまう。


 ギルドに入ると普段はなかなか目を合わせてくれない顔役がニコニコしながら声をかけてきた。


「おお!アルベルト!お前にぴったりの依頼があるんだ。依頼主は屈強なヒーラーを御所望だそうだ。できればルガディン族がいいとも言っている。お前最近、港で積荷下ろしの仕事しかしてないから、身体は完全に仕上がってるだろ?」


「仕上がってるってどう言う意味だ?それよりもルガディン族指名の依頼って……この前みたいな依頼じゃないだろうな?」


「そこらへんはバッチリ調査済みだ。安心してくれ。あんなヘマは2度としない。依頼主はイシュガルドから来た貴婦人。帰国する道中の護衛を頼みたいそうだよ。」


「やはり屈強なヒーラーの需要はあるんだよ。赤毛モジャめ!!そこらへんにいる、もやしみたいなヒーラーとは安心感が違うんだよ、安心感が。ガハハ。」


「じゃあ早速、上にある宿屋のスイートルームに行ってくれ。断るわけないと思ってもうOKの返事はしてある。急いでくれよ」そう言うとマスターはカウンターの奥に消えて行った。


 足元を見られているような気がしたが確かに報酬も申し分ない。依頼内容も実に冒険者っぽい。断る理由はないように思えた。


 男は足早にスイートルームへ向かう。どっしりとした大きな扉を開けると、頬を桃色に染めた貴婦人が窓の外を眺めていた。

 耳が長く尖っていて、ほっそりした長身。間違いなくエレゼン族だ。イシュガルドはエレゼン族が収める国。これは怪しい依頼じゃなさそうだと男はほっとした。


「お初にお目にかかります。私の名はアルベルト・ブラウン。これから皇都イシュガルドまでの道中、貴方の守り手を務めさせていただきます。どうかお見知り置きを」

 男はできるだけ威厳が出るようにそれらしい挨拶をして、純白の杖を頭上に掲げた。


 貴婦人は振り向くと不思議そうな顔でこちらを見る。

「あらまあ!守り手だなんて随分大袈裟ね。護衛はイシュガルドから連れてきた騎士がおりますのでご心配なく」

 そう言いながら貴婦人は男の体つきを確認するように視線を絶えず動かしている。

「それよりも体格のいいヒーラーが唱える回復魔法はとっても肌にいいらしいって噂を聞いたの。リムサ・ロミンサは大好きだけど日差しが強いのはいただけないわ。日焼けした肌で皇都に戻るわけにはいかないの。高いお金出してるんだからイシュガルドまでの道中しっかりケアを頼むわね。」


 男は掲げた純白の杖を下げると力なく答えた。

「ご安心ください。私の回復魔法はとても肌が潤うとギルド内でも評判なんですよ……」


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