第11話 図書室で


「ここが図書室。昼休みと放課後だけ入れるんだ」


 ここに来るまでに二人の事をあらかた聞いた。三谷が男子の学級委員で、クラスで一番勉強が出来ること。丸本は勉強はイマイチだけどスポーツはクラスで一番得意だということ。二人とも保育園からの幼馴染で、家もすぐ隣らしい。俺には幼馴染と呼べる友達は特にいなかったから、正直に二人の関係は羨ましいと思った。


「天野は本が好きなのか?」


 早速『天野』と呼ぶのは丸本で、なかなか人懐っこくリードするのが上手い。


「うん、本は大好きだよ。小さい頃からずっと読んできたから」

「へぇ、僕も本は好きだけど、きっと天野くんにはまけるだろうな」


 ひょろ長の身体にメガネという真面目そうな外見の通り、三谷は勉強だけでなく読書も好きみたいだ。俺はこの二人とは何となく気が合いそうだな、と思って嬉しくなった。


「君たちも借りる?」

「うえー、俺はいいや」

「僕はせっかく来たから何冊か借りようかな」


 二冊まで借りられるという図書室の本は、前の学校に比べたら少しだけ物足りない数だったけど、それでも本に囲まれていると落ち着いた。本の香りや本棚と本棚の間の雰囲気が大好きだ。


「天野くんは何を借りたの?」

「俺はミステリー小説が好きだから、今回は読んだ事がない推理小説にしたよ。三谷くんは?」

「僕はエッセイにハマっているんだ」


 エッセイだなんて、意外なチョイスだった。俺達が本を選んでいる間、丸本はずっと歴史上の人物を紹介する漫画を読んでいる。堂々と学校で漫画が読めるアレだ。


「六年間同じクラスだと、みんなが仲良くなれるんだろうね」


 何気なくこぼした言葉は、妹の明日香の為にこの学校にいじめはないのかどうか探る意図があった。


「まぁな。みんな保育園とかからずっと一緒の奴も多いし、親同士の繋がりもあるから仲は良いのかも」

「ここは田舎だから」


 何となく、二人の顔に翳りが見えた気がして不安になる。二人とも、この雫山村に不満があるのだろうか?


「この村はいいところだね。空気がいいから妹の喘息もかなり具合がいいみたいだ。校庭のひまわりが随分と大きくてびっくりしたけど」


 あの大きなひまわりを思い出した。タネがびっしり埋まった茶色の部分は重そうで、きっとまたたくさんタネが取れるのだろう。時期が終わる頃に首をもたげた姿はうなだれた人間のようで、実は昔からあまり好きじゃない。


「天野くんの妹は何年生?」

「三年生だよ」

「それじゃあ僕と丸本の妹も同じクラスだね」


 どうやら二つ違いの兄妹は多いらしい。二人の妹ならば、きっと良い子なんだろう。それを聞いて少しホッとした。もしかしたら先程明日香の周りに固まっていた女子達の中にいたのかも知れない。


「丸本くんと三谷くんの妹ならきっと良い子なんだろう。仲良くしてくれると助かるよ」


 本心からそう思ったから、きっと俺の顔は自然に笑えている。その証拠に二人も俺の顔を見て笑顔を綻ばせた。


「そういえば、俺の隣の席の綾川さんってどんな子なの?」

「早速女子に目をつけるなんて、お前なかなかエロいな!」


 丸本が読んでいた漫画を置いて肘で小突いてきた。三谷も何か面白いことを聞いたような表情でこちらを見ている。なかなか話す事ができないさやの事を直球で聞き過ぎた感は否めないが、別に隣の席の学級委員の話なのだからおかしくはないはずだ。


「丸本くん、エロいだなんて……そんな変な目で見てないよ。隣の席だし三谷くんと同じ学級委員なら優秀な女子なんだろうなと思ったんだ」

「綾川さんが学級委員なのは人望で選ばれた感じだね。勉強はあまり得意ではないみたいだ。ただ、運動は種目によってかなり差があるみたいだけど。それに、この村の神子みこだから村の神事を司る大事な役割を担ってる」


 丸本はニヤニヤとしているだけで答えようとしないものだから、代わりに三谷が答えてくれた。

 やはり、さやは神子なんだ。祖母の言っていた事は確からしい。けれど、勉強も運動もそこまで完璧じゃないところは意外だった。何となく、全てが完璧に出来るイメージを持たせるような凛とした大人っぽい外見をしているから。

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