僕は君に恋をする

@haruya-ryoto

第1話

あの夜インターホンに写る君がいた。


なぜ夜に突然訪れたのか


僕はその違和感に気づかなかった。


何も疑わなかった。


ただ下を向いてインターホンに映る君を。


僕は扉を開ける。


すると君は突然顔を上げた。


そして銃を向けた。


親友である僕に。


そこにあるのは涙をうかべた君の覚悟だった。





君の家は両親もろもろあまり

上手く行っていなかった。


借金があると、それを自分を置いて

2人で逃げた両親の代わりに

払わなくてはならないと。


高校生の僕達ではあまりに無謀な額だった。


誰か頼れる大人の人がいれば

それはどうにかなったかもしれない。


しかし、生憎僕の両親も家には帰ってこない。


ただお金だけは毎月振り込まれてくる。


僕の生活もまた裕福なわけがなかった。


環境に恵まれなかった。


それが僕達を固くつなぎ止めていた。


一緒にバイトをしてお金を稼いだ。


君の生活費だった。


君は僕に借金をしていた。


最低限の生活ができるようになった頃

僕は返さなくていいといった。


君が生きていればそれでいいと。


こんな男同士で何を臭いこと言わせるんだと

笑っていたが

君は違ったようだった。


君はその場で僕の腕をを取り、

自分の方に引き寄せ

キスをした。


「ごめんな」


何が起きたのか理解が出来ずにいた僕は

君の言葉で何かを察した。


そしてこれから悪いことが起きるという予感

は当たってしまった。


あの日、いつもは青白い程の君の頬が

かろうじて赤く染まっていたのを

忘れることはできなかった。





僕は君を抱きしめた。


「おい、大丈夫か。落ち着け。」


君はあまりに細かった。


君のことだから早く早く借金を返すために

食費を極端に少なくしていたのだと

僕は思った。


君の震えは止まらない。


銃が僕のお腹辺りに優しく突きつけられている。


何度も触れたり離れたりする

その感触が僕に緊張を誘う。


君は何も言わない。


ただ僕の腕の中で息を荒くしている。


僕は、君を助けたかった。


君が笑っていればそれで良かった。


そう思って君にキスをした。


君はびっくりして僕の方を見た。


「やっと目が合った。何があったの?」


君は大粒の涙をぼろぼろと零した。


「僕は、君を殺さなきゃいけない、本当は早くこの引き金を引かなきゃいけない。」


「うん。」


「君は、借金取りに殺されてしまう。僕がお金を持っていないから。」


「うん。」


「きっと逃げられない。君も、僕も。だから、君のことは僕の手で殺したい。」


「うん…。」


正直、親友からの殺害予告には驚いたが、

僕の選択肢は1つしか無かった。


「じゃあ、殺してよ。僕は君に殺されたい。」


君は泣いていた。


でもどこか安堵しているようにも見えた。


だから少しむかついた。


これから僕は死ぬというのに

君は僕がいなくなっても寂しくないのか。


「その代わり1つお願い。

君が僕を殺したあと、君も死んで。」


「それか一緒に死のう。」


「さぁ、どうする?」


君は少し戸惑ったあと


「君を殺したあとに僕も逝くよ。

どうせ死ぬなら借金取りのやつらに少し復讐がしたいんだ。」


「復讐?」


「うん…。僕はずっとお金が返せなかった間あいつらに無理矢理…」


まだ言いかけている君をもう一度

強く抱きしめた。


怒りは治まるはずもないが

心の中で暴れている何かが

静かになるまでずっと。


「やっぱりだめだ。銃を貸して。」


そう言って僕は半ば強制的に銃を取り上げた。


「何するの…?」


君の不安そうな顔が心に刺さる。


それでも僕は止まれなかった。


「君を一瞬でもこの汚い世界に1人で残すことは僕にはできない。」


そう言って君をもう一度抱きしめて

そのまま銃を突きつけた。


「好きだよ。」


君の静かな嗚咽が響くなか僕は引き金を引いた。




ここからはもう、すぐだった。


発砲した音を聞いた借金取りのやつらが2人ほど歩いて近寄ってきた。


君が僕を撃つのを見張っていたのだろう。


しかし、君ではなく僕が生きていた事に少し驚いた様子だった。


でもそんなことは僕には関係ない。


「あぁ、お前らか…。君を…。」


奴らに狙いも定めず発砲した。


パトカーのサイレンが遠くから聞こえてきた。


近所の人が君を殺した1発めの発砲の時点で

通報していたのだろう。


僕は君の方をみた。


泣き疲れて寝ているようだった。


僕は君の隣に寝っ転がった。


君の額にキスをした。


幸せそうな恋人の真似をして。


「よく頑張ったね。」


そう言って君を抱きしめたまま

もう1度引き金を引いた。

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