閑話9-2

「カーターの報告で騎士としての腕は合格だ。グループ内の者の意見も一致している。そして今、目の前にいるお前を見てそれは確信に変わった」

スキットがそう言いながらソルトを見た


「ビンス」

「…はい」

「この国の騎士になる気はあるか?」

「え…?」

ソルトからの思いがけない言葉に固まった

空耳だろうか?

それとも俺は自分にとって都合のいい夢でも見てるのか?

でも続けられる言葉が現実だと教えてくれる


「この度の魔物狩りの処罰にはもう一つの意味がある」

「もう一つの意味…ですか?」

「この国にソンシティヴュから亡命してきた者が沢山いるのは知っての通りだ。それもあって騎士が不足している」

「…」

「騎士の募集は行っているが即戦力となると難しい」

それはもっともなことだ

でも、だからと言ってなぜ俺が?

俺は騎士にあるまじきことをしたんだぞ?

頭の中は“混乱”という言葉そのままだった

彼らが何を考えているのかまったくもって理解できない


「オナグルはおそらく、最初は当主に主従契約を結ばせようとした」

「当主を落とせば一族全てが従うと考えたのだろう。実際当主が操られていた一族は男手の殆どがいた」

「落ちなかった当主はおそらく防御の魔道具を身に着けていたんだろう。だからその家に関しては騎士に主従契約を行った」

ソルトとスキットは代わる代わる言葉をつなげていく


「私もその中の一人だと…?」

「そうだ。他のシルバーの2名も君と同じような立場ではないか?」

「おっしゃる通りです。しかし…」

確かにあいつらも同じ境遇で、だからこそ俺達は互いに理解し合うことが出来た


「防御の魔道具は数が少なく高額だが、ゴールドやシルバーなら充分確保できるものでもある」

今回騎士団で取り込まれたのはブロンズだけだったというのはすでに聞いた

それはつまり…

「私たちは疎まれていたから…その魔道具を与えられるはずもなかったと…」

その言葉にはある種の絶望が含まれていたと思う

俺だって好きであの家に生まれたわけじゃない

むしろ俺を産んだことで心を病んだ母さんはあの家の当主の被害者でしかない

除籍されたはずなのにオナグル様の専属護衛になった時から籍を戻された

それが手駒としての価値を見出したに過ぎなくても、どこかで認めてもらえたのだと思おうとしていた

その結果がこんなことになるなど誰が思うだろうか…


「我が国の王はソンシティヴュの称号持ちの考え方をある程度理解されている。その上でオナグルに主従契約を結ばれた騎士は純粋に騎士を目指した者だと考えた」

「…?」

その言葉の意味が理解できないと首を傾げるとソルトはつづけた


「使える騎士であるということだ。だがその人となりに問題があれば引き入れることは有り得ない。そのための魔物狩りだ」

「お前の事はグループのメンバー皆が認めたということだ」

カーターの添えた言葉に胸が詰まる


「君に我が国の騎士として働く意思があるなら歓迎しよう」

ソルトの言葉に息を飲む

そんなことが許されるのだろうか?

俺にそんな資格があるのだろうか?

でも…


「許されるなら…その機会を与えていただけるなら…今度こそ守るべき者の為に剣を…」

今度こそ、何があっても、守るべき者に刃を向けたりなどしない


「これから守るべきは敵国だった国の民だぞ?」

「守るべきは自身よりも弱き者だと教わりました。そこには敵・味方も国も意味をなしません」

即答するとソルトが満足げに頷いた


「今この時を以てビンスを我が国の騎士と認める。このままカーターのグループでその力を活かしてほしい」

「誠心誠意努めさせていただきます!」

俺はグループの者から教えてもらったカクテュスにおける最敬礼の姿勢を取った

ソンシティヴュとは違い跪くことは無い

非常時に最速で動けるようにと考えられたカクテュスならではの形らしい


その数週間後、シルバーの残り2名とブロンズの5名が、魔物狩りのノルマを達成するまでにカクテュスの騎士として認められることになった

俺達は今度こそ間違わないと固く誓い合った

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