121.夢?
121
妊娠して半年、お腹のふくらみも目立つようになり、カフェでも色んな人に気遣われるようになってきていた
出産や育児の事を考えて、カプシーヌ達にサポートで入ってもらうようになったのは最近の事だ
毎日屋台の日でない誰かが必ず入ってくれるという体制は、刺激という意味でもいい効果をもたらしていた
「この先ずっとお願いしようかしらね」
「私もそれには賛成よ」
店を閉めた後にカメリアとそんな話をすることも増えた
「オリビエが出れない日は2人入ってもらった方がいいかもしれないわね」
「そうだね。ゆとりがあった方がいいだろうし…」
翌日その提案をしてみると2つ返事で了解を得ることができた
勿論、アルバイトの扱いだ
報酬は日当という形でその日払いにしている
カプシーヌ達は、それを週に1~2回の臨時収入だと喜んでくれているらしい
私自身は働かない日もカウンターにいてお客様と話したりはするのでとても充実した日々を送っていた
そんな時だった
私が眠りに落ちたその時、闇に飲み込まれる感覚に包まれたのは…
「ここは…どこ?」
真っ暗な世界に私はいた
「あそこは…」
一か所だけ床だろう場所から光がさしていた
ゆっくり歩みを進めて近づくと穴が開いているのがわかる
警戒しながらもその穴をのぞき込む
「!!」
その瞬間強い風が起こり思わず目を閉じた
「何?」
訳が分からないまま風が収まるのを待って目を開く
でもそこには目をそむけたくなるような光景が広がっていた
『助けて!誰…か…』
悲鳴を上げながら逃げ惑い、そのまま息絶えていく人々
『パパ~!ママ~!』
両親を呼びながらふらふらと歩き続ける少女
その体にはたくさんの返り血を浴びていた
「あれは…」
髪の毛を鷲づかみにされ、宙づりにされた少女に目が釘付けになる
泣き叫びながら必死で母を呼ぶ少女に思わず手を伸ばす
その瞬間得体のしれない苦しみと悲しさ、激しい怒り…そんな色んな感情が一気に流れ込んで来た
「な…?」
何が起こったかわからない
でも自分の目から涙があふれ、必死で少女を求めていた
自身の体は浮遊感を感じ、どれだけあがこうとも少女から遠く離れていく
どれだけ駆け寄りたくても叶わない絶望感に襲われた
「やめ…て…!私の…!」
少女が殴られ、切り付けられていく様をただ見ているしか出来ない事に胸が引き裂かれそうだった
どれだけ叫んでも、手を伸ばしてもそれが少女に届くことは無かった
「!」
再び強い風が吹いた
さっきと同じように思わず閉じた目を開けると全く違う世界が広がっていた
「ここは…」
懐かしい
ふとそう感じた
同じではない
でも、ところどころ見知った建物があるのだ
「あれは…ミルトゥ?」
自分の生まれ育った世界
この世界に来る直前まで暮らした町
時代は少し遡っているけど、間違いなくそこはミルトゥの、自分のいた町だった
そして流れ込んできたのはとてつもなく大きな絶望
傍らには優しそうな男性が寄り添っていた
でも、彼がどれだけ話しかけても、どれだけ笑いかけても女性が返事をすることも、笑みを浮かべることもない
『あの子の元に帰りたい…』
女性はそれだけをただ繰り返し呟いていた
『すまない。俺には君を帰してやる力はない。ただ、寄り添って支えるしか出来ないんだ』
男性の悔しそうな、悲しそうな言葉が同じように繰り返される
二人の間にやがて子供が生まれても、女性の目に男性と子供が映ることはなかった
そして再び私は闇に包まれ、やがてその闇から解放された
「…今のは…?」
目を覚ますとロキの腕の中だった
「どうした?」
心配そうに覗き込むロキにすり寄ると抱きしめてくれる
その腕の中の温もりが心を落ち着けてくれる
「何か変な夢を見たの」
「変な夢?」
「うん…夢というには生々しくて…登場人物の感情がダイレクトに流れ込んでくるような感じがして…」
そこまで言って身震いする
あれは本当にただの夢だったのだろうか?
「大丈夫だ。俺が側にいる」
その声に引き戻される
「そう…だね…」
安心したとたん再び睡魔に襲われた
「ゆっくり休め」
そんなロキの声を遠くで聞いた気がした
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