119.魔道具職人

119-1

「失礼していいかしら」

カフェの終わり掛けにそう言って入ってきたのは2人の年配の女性だった


「すみません。今日はもう閉店なんです」

「違うのよ。商人のキリアにここのオリビエと言う女性が会いたがってると言われて訪ねさせてもらったの」

「オリビエは私です。失礼ですけど…」

戸惑う私にロキも意識をこちらに向ける


「あぁ、ごめんなさいね。私は魔道具職人のレキシーです。彼女は細工師のリリー」

「はじめまして。私までお邪魔しちゃってごめんなさいね」

「いえ、とんでもないです。どうぞ中へ」

テーブル席に案内してコーヒーを用意した


「あら、このランプ」

「そうなんです。このランプを気に入ってキリアにお願いしてたんです」

レキシーは嬉しそうにランプを手に取った


「これは私たちの合作なのよ」

「合作?」

「ええ。私が形を作ってレキシーが魔道具として調整するの。私は魔力が少ないからとても助かってるのよ」

「逆に私は何かを形にするのが苦手でね。だから2人で共同で作ることにしたのよ」

2人はそれは楽しそうに言い合っている

とてもいい関係が気づけているのだと分かる


「そうだったんですね。このランプ、お客様にも評判がいいんですよ?だから他にも色々作ってもらえないかなって」

私が勢いのままにそう言うと2人は困惑の表情を浮かべた


「えっと…?」

「色々作りたいのは山々なのだけれど…ねぇ」

「えぇ…」

「何か問題が?」

「これまで工房にしていた場所が土砂崩れでだめになってしまったの。今は住む場所兼工房を探してるところなのよ」

その言葉にロキを見る

呆れたように笑いながらも頷いてくれた


「ではここはいかがですか?」

「「ここ?」」

「ええ。カフェをしてますけど屋敷の方は余ってる部屋が多くて貸し出してもいるんです」

そう言うと2人は顔を見合わせた


「住み込みの使用人や家賃の代わりに製品で収めてもらう職人さん、家賃を貰って住んでる人もいますけど」

「それはまた大所帯ね?」

「そうですね。小さな子供達もいますしとても賑やかですね」

「…その、家賃はおいくらくらいになるのかしら?私たちが依然借りていた工房は月15万シアでそれとは別で月7万シアの部屋を借りてたの」

「できればその22万シアの範囲内で色々賄いたいのだけれど…」

「ロキ、倉庫っていうか小屋まだ余ってたよね?」

「ああ。あと1つ余ってるな」

「うちの家賃は1部屋当たり月6万シア、食事付きなら8万シアです。工房は特別な設備が必要だったりします?」

「そんな大きなものは必要ないわ。樹脂や蝋を使うことが多いから水や火が用意できれば十分。桶に汲む程度だから水道は遠くても問題ないわ」

「私もテーブルと椅子があれば問題ないわ」

「だったら空いてる小屋を自由に使ってください。賃料はいりませんから」

「「え?」」

「本当にそんな…いいのかしら?」

「私達には良すぎる話よ?」

困惑気味に尋ねられて頷いて返す


「できれば注文を受けてくれるとありがたいですけどね」

「それは勿論よ。喜んで受けさせてもらうわ。ねぇリリー」

「ええ、ええ。最優先でお受けするわ」

「じゃぁ…?」

「ええ。食事付きでお願いしてもいいかしら?2人分で16万シアなら作品の方にお金を回せるもの」

嬉しそうに、そしてどこかホッとしたように言う2人に私も嬉しくなった


「もうすぐ暗くなる。先に小屋を確認してもらった方がいいんじゃないか?」

「そうだね。あ、彼は私の旦那様でロキです」

「どうも」

「こちらこそ。とてもいいお話を有難う」

「よろしくおねがいしますね」

2人共立ち上がってそう言った

そのまま2人を促して庭に向かった

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