108-2

「あの、そちらの方って…」

「ごめんなさい。自己紹介もしてなかったわね」

「オリビエ、俺の嫁だ」

「クロキュスさんの…奥さん?!結婚…?」

「悪いか?」

「いえ、とんでもないです…ただそんなイメージが無かったので」

「今のこいつはずっとこの調子だから慣れるしかないな」

「心配するな。すぐに慣れる」

しどろもどろになりながら言うアントにジルコットとフロックスが笑い出す


「まぁそれはともかくとして本題に入ろうか」

「そうだな」

ジルコットの言葉にフロックスとロキもソファに座った


「元からいる医師が1日置きだと聞きました」

「その通りだ。これまで休みになってた日に私が入っているが、アントが来てくれたなら2人体制にしたい」

「確かにその方が安心ですね。じゃぁ俺は毎日入ればいいということですか?」

何でそうなる?


「いや、週に1日は休みなさい」

「しかし…」

「ここはソンシティヴュじゃない。安月給で休みなく働く必要は無いんだ」

「報酬は基本的に朝9時から17時まで働いて、1日当たり15,000シアになると思うんだけど…」

「そんなに?!多すぎます!」

ここに来て何度も驚いていたアントがこれまで以上に目を見開いた

ちなみにジルコットはその腕と経歴、応急処置の講習等の関係で1日当たり20,000シアになったらしい

ジルコットは断っていたけどタマリが譲らなかった

例のごとくソンシティヴュの王宮に勤めていた時は家賃や食費を引かれて、1日当たり3,000シアも無かったというから酷い話だ

しかも休憩や仮眠は有るものの24時間360日体制だ

中々折れないジルコットにタマリはその報酬で誰かを援助するのも自由だとささやいたのだ


「報酬の最終的な調整はここの領主タマリとやってもらうしかないな。俺達はその金額を提示するように言われてるだけだからさ」

元々タマリは15,000までは出すというニュアンスだ

バックスは10,000で契約してるらしいから、アントもそれくらいまでなら交渉できるはず

わざわざ値下げ交渉するのもどうかと思うんだけどね


「当面アントには週5日入ってもらう。アントの休みの日は私が入って2名体制を取る予定だな」

「そうなるとバックスが3日、ジルコットが4日、アントが5日勤務するってことね?」

「往診は週に一度でいいのか?」

「問題ない。それにバックスの子供がもう少し大きくなったら週4日に増やしたいと言ってるからな」

「そうなのか?」

「子どもは大きくなればその分金もかかる。子どもに働かせるより、家にいてもらった方が安心だと言っていてな」

「確かにそれは有るわね。魔物を…なんて言い出したら奥さんの精神の方が参ってしまいそうだし」

「それなら週に1日増やした方が問題も少ないか。ジルコットが往診するならその手当ても出すって言ってたし、この町の医療体制が整うのはいいことだな」


「あとは住むところだが…」

「ジルコットはここに食費込みで8万シアで住んでるけど、アントもそれでいいかしら?」

「ここ…ですか?」

「そう、ここ部屋だけは沢山あるのよ。子どももいて賑やかだけどそれでもよければ」

「ありがたいです。是非お願いします」

「じゃぁ部屋は後で選んでもらうとして…」

「朝食が済んだらタマリのところに一緒に行ってくるよ。ついでにバックスとの顔合わせもな」

ジルコットに促されてアントも一緒に朝食を取ることになった


「カメリア達もいたか。丁度いいから紹介しておこう。今日からここに住むアントだ。この町3人目の医師になる」

「アント・レフルトです」

アントは軽く会釈する


「カメリアです。ここの掃除とカフェのスタッフとして働いています。この子たちは私の子供達でコルザ、ロベリ、リラです」

「「「こんにちは」」」

子供達が声を揃えてそう言った


「こんにちは。おじさん分からないことだらけだから教えてくれるかい?」

「いいよ!その代わり遊んでくれる?」

「おじさんでいいのかい?」

アントはコルザと同じ視線で話をしていた


「ジルコット、アントは…」

「子供好きでな。騎士達の息子ともよく一緒に遊んでた」

「子ども達と仲良くしてくれるなら有り難いわ」

最近はルチア達もよく遊びに来るから、構ってくれる人が増えるのは大助かりだ


子供達との楽しい朝食を終えたアントはジルコットと出かけて行った

タマリとは15,000シアから半値で交渉したものの、最終的にバックスと同じ額で落ち着いたという話は、後日タマリ自身から聞かされることになる

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