100-2

「どういうことだ?」

「魔物と対峙する者と町中で生活する者では必要になる処置が別だろ。前者は止血や部位の固定がメインになる。街中では子供と老人でも必要な処置は変わってくる」

言われてみればごもっともなことだった


「ギルドの講習は騎士用の内容を易しくしたので問題ない。街中の者に関しては定期的に対象を絞って講習すればいいだろう。必要なら協力しよう」

「本当か?」

「ああ。私の望みは少しでも多くの命を救うことだ。その為には医師が頑張るだけでは間に合わん」

「そのための努力ならいくらでもするってことか?物好きな」

「お前たちに言われたくない。どうせ自警団も主導で動いてるんだろう?」

簡単に言い返されたダビアは笑い出す


「僕も教えて?」

「ん?応急処置か?」

伺う様に見上げたコルザに尋ね返す


「うん。遊んでる時よくケガするから」

「はは…そうか。なら怪我した時にその都度教えてやろうな」

「やった。約束だよ?」

満足げに頷くコルザをみんなが微笑みながら見ていた


「とにかく、この町に医師が増員出来たことも、この屋敷に人が増えたことも喜ばしいってことだよな」

「贅沢いうならもう一人いてくれた方がいい気はするがな」

「確かにどちらかがダウンしたら今までと変わらないってのは困るものね。その辺はタマリも納得してくれると思う」

「そうだな。ジルコットに当てがあるなら呼び寄せてもらってもいいんじゃないか?変に募集するより信用できるだろうし」

「そういえば感染症事件の時ジルコットの部下が2人いたよな?彼らはどうしたんだ?」

フロックスは側に控えていた青年たちを思い出す


「ああ、1人は家族とブロンシュに移った。母親がブロンシュ出身らしくてその伝手を辿るそうだ」

称号なし、平民の3国間の婚姻はよくあるという

特に国境沿いの町では出入りが激しいため割合も多くなる

実際その青年も国境沿いの町出身だった


「もう1人、アントは身寄りがないからカクテュスまでは一緒に行ったんだが亡命者のいる町で別れた。その後どうしてるかまでは分からんな」

「アント・スキャンか。カクテュスにいるならすぐに調べられる。候補として一度話を出してみよう」

「は?」

ロキの言葉にジルコットが呆然とする


「あ~ジルコット、クロキュスはこう見えてカクテュスの王族だったりするんだ。継承権は破棄してるらしいがな」

ダビアが苦笑しながらそう言った


「王族?ではオリビアも…確かシュロもクロキュスの…」

「身分の事は忘れてくれ。ここにいる上で俺は王族の身分を表に出すつもりは一切ないから。ただ、フジェの町と召喚されたオリビエに関する権限だけを貰ってるに過ぎないんだ」

「しかし…」

「ふふ…今更改まってしゃべられても困るわ」

「それはそうかもしれんが…」

ジルコットは困ったように顔を歪めた


「オリビエはオリビエだよ?」

コルザがそう言ってにっこり笑う


「あぁ、そうか。確かにそうだな。そう望まれるなら身分の事は忘れるよう努力しよう」

「そうしてくれると嬉しいわ」

「むしろそうしてくれる方がいい」

「そうそう。俺もただの冒険者だしね」

シュロも含め私たちがそう言うとジルコットも肩の力が抜けたのか表情を緩めた


「ジルコットにはアントに手紙を書いてもらいたい。その方が話が早そうだ」

「承知した。彼のこれからの事は気になっていたからありがたい」

「亡命者の今後の事に関しては3国とも考えることが山ほどある。働く場があるなら積極的に斡旋するのは当然だ」

「確かにそうよね。彼らにしてもその方が安心できるだろうし」

“亡命者=養われるだけの人”のままでは肩身も狭いだろう

ジルコットの手紙はシャドウを通じてアントに届けてもらう手はずを整えた

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