93-2

「なるほど。そういう世界にいたから理解できないか。逆に言えばそれだけ性行為に寛容だったということか」

「みたいだな。そんな中でお前が俺だけのモノになってくれたことは幸運だったってことか…」

ロキが私の腕を引き抱きしめる

確かに私は結婚するまでは…なんて考えていたわけではない

偶々そう言う機会が無かっただけなのだと思い出す

もしその機会があったのならこうしてロキと結ばれることも無かったのかもしれない


「そういう意味ではもったいない気もするね?」

「もったいない?」

「うん。例えば旦那さんが騎士で、その仕事の中で亡くなったとするでしょう?女性がまだ若くて生きていく中で別の人に惹かれたとしても、共に生きていくことは出来ない、って言うのがこの世界の常識なのよね?」

「…そうなるな」

「傷付いて、ようやく前を向いて歩き出したのに幸せになれないのは悲しいなって思う」

「先のメイドたちも同様か…」

「彼女たちはなおさらです。望んで処女じゃなくなったわけじゃないもの。それなのに未来を閉ざされるなんておかしいって思っちゃいますね」

誰にでも幸せになる権利はある

事件に巻き込まれて心を閉ざしてしまう人もいた

でも、それでも幸せを望む人もいたし、知人の中にも相手に癒されて幸せになった人もいた


「そういう者の為に町を作ろうと思っている」

「そういう者?」

「メイドのように望んでそうなったものでない者や未亡人、離縁されてしまった者の住みやすい町だ」

「男性は?」

「中にはいるらしい。自分たちは娼館に通ったりするのに女性だけに処女説を押し付けるのはおかしいという者が」

「それはもっともな意見ですね」

「聞かされた時思わず心の中で同意してしまった。そういう新しい考え方をする者がいるなら希望はあると思っている」

モーヴの目は真剣だった


「最初は女性だけになるだろう。その守りに新しい考え方をする騎士や魔術師を配置して、少しずつ恐怖なり不安を解消してもらえたらと思っている」

「なるほど。ならそこに生活に役立つことを教える人を派遣してもいいかもしれませんね」

「人を派遣?」

「ええ。突然住む人はいないでしょうし…その新しい考え方をする人を派遣することで接触機会を増やすのはありだと思うんです」

「接触機会を増やす…」

「人の心は強制できませんからね。でも関わる中で何かが変わる可能性もあるでしょう?日用品を運ぶ商人もそういう考え方の出来る人にすべきでしょうし」

「そうでなければその町は色んな意味で標的にされそうだな」

ロキの言葉に頷いて返す


「確かにいろんな面で考えるべきことがありそうだな」

「どうせならその町は性的マイノリティの方も受け入れてくれるといいんですけど」

「性的マイノリティ?」

「同性しか愛せない人や、体と心の性が別の人のこと」

「…いるな。騎士の中でも何人か見たことはある。頑なに隠してはいたが…」

「そういう方も含めて誰もが自由に過ごせる町、素敵だと思います」

この世界では虐げられている人たちでもある

頑なに隠すのは知られれば排除されるとわかっているからだ


「彼らにしかわからないことも多いのだろうな」

「そうですね。だからその町を作るなら彼らと一緒に作ってくださいね?」

「ああ、必ずそうすると約束しよう」

そう言えるモーヴはいい王と言えるのだろう

古くから根付いた慣習を変えるのは簡単なことではない

でもイモーテルのいる町があるのだから不可能ではないとも思う


「お菓子作りを教えにとかなら協力しますよ」

「それは有り難い。その時には声を掛けさせてもらおう」

モーヴは満足げに頷いて帰って行った

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