89-2

「フジェでは先のスタンピードで国からの援助を受けられなかったと聞く。民の怒りはまだ静まっていないのでは?」

「家族を失った者もおりましょう」

「その者達の心が穏やかであるはずがない」

口々に出て来る言葉には一様に怒りがこもっていた


「国が形をなさなくなった以上資産没収だけでは意味がない。肉体的・精神的に苦痛を伴う罰となると…」

「…フジェから近隣の町への道の整地などはいかがでしょう?肉体労働ですし、何よりフジェの町の為になる」

「なるほど。近隣の町への道中の整地なら無駄にはならんかもしれんな」

「これまで汗水たらして何かをしたことなどないような連中だ。精神的にもきつかろう。しかもそれがかつて自分たちの見捨てていた民たちのための物であれば猶更な」

魔術でも可能な作業でありながらあえて彼らにさせるというのだから質が悪い


「しかし整地に時間がかかりすぎても困ります」

「馬車が通れる程度には拓いてあるから既に行き来は出来るのだったか?」

「そうですね。激しい揺れを我慢しさえすれば、ではありますが」

「ならば3国との協議で処罰が決るまでとすればよいのでは?」

「協議後、奴らの目の前で魔術師団が一気に総仕上げをする、なんていかがでしょう」

黒い笑みを浮かべながらそう言ったスキットを見てモーヴは休みを取らせるべきだろうかと真剣に考えた


「当主と家族の中でも成人した男たちには整備を、それ以外はあの塀の中で畑を作らせましょう」

「畑?」

「そう言えば農地はそれなりにありましたね。」

「その農地を区画ごとに分け与えて管理させましょう。収穫できたものはフジェに運べば買い取る。勿論チップを埋め込んで逃走防止の対策もしたうえでね」

「自分たちで食いつくすんじゃないか?」

「そうしたければ勝手にすればいいわ。買い取りは20個単位。対価は固定でサイズや育てやすさによって1000シア~1500シア。それと次に植える種なんてどうかしら?」

「なるほど。そうしておけば自分たちで消費し過ぎたら次を育てられなくなるってことか」

「出荷の量を固定にして1つでも減っていれば買取価格を半値にするのもいいかもしれませんね」

これまでと逆の立場になる上に、悪だくみは通用しない

称号があるというだけで称号のない平民から強奪するかのようにあらゆるものを巻き上げて来た者達にとっては耐えがたいことだろう


「整地の者の衣食住はどうするのだ?」

「食事は使用人に与えていたモノと同等でよろしいのでは?酷い所では3食、固いバンと屑野菜のスープだけというところもあったようですが」

「住む場所も小屋で充分かと。敷物と毛布、枕程度であれば囚人用の物を回せるでしょう」

「衣類も囚人用と同じものを同等の3セットずつ。井戸を設けておけば洗濯も可能でしょう。奴らに洗濯ができるかは知りませんがね」

誰も囚人と断定はしていない

でも扱いはそれと同等だと暗黙の了解がなされていた

さらなる詳細はその日のうちにまとめられ、翌日から行動に移された

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