85-2

「お、ようやく落ち着いたのか」

屋敷に戻る途中、ギルドの前でシュロに呼び止められた


「…お前はこんなとこで何してんだよ?」

ロキはあえて答えず別の話を振る

シュロはそれを呆れたように笑って流した


「今日は休み。溜ってた素材を整理したから、不要分を売りに来ただけだ」

「そういやお前も都度精算じゃなかったな」

インベントリを持つ私たちは、毎度毎度素材を鑑定してもらうのが面倒というのを理由に、ある程度まとまってからギルドに持ち込むことが多い

「オナグルの処遇の知らせ見たか?」

「ああ。結構えげつない事するな」

「あれでも甘い方。痛覚を倍にしてって話もあったくらいだし。でもそれで精神崩壊したら元も子もないって却下されたらしい。ちなみに提案したのはカモミだ」

「…」

私たちは顔を見合わせる

カモミはそれだけ怒っていたということだろうか…

ひょっとしたら一番怒らせてはならない人なのかもしれない


「俺は子供のころからカモミだけは怒らせるなって言われてきたからな。お前らも気を付けろよ」

シュロはそう言いながら私たちに並んで歩き出す


「オリビエ元気になったのね?良かったわ」

「ありがとう。おかげさまでこの通りよ。明日からカフェも再開するから来てね」

「本当?みんなにも伝えておくわね」

すれ違いざまそんな会話を何度となく繰り返す


「ここは本当にあたたかい町だな」

「シュロでもそう思うの?」

「俺でもって?」

「色んなところに行ってるんでしょ?」

キョトンとするシュロにそう返すとなるほどという様に頷いた


「ああ。確かに色んな町に行ったな。大半がカクテュスの中だけど。いさかいこそないけど周りとは当り障りなく付き合う程度の町が多かった」

「そうなの?」

「多分ソンシティヴュが王族至上主義のせいじゃないかな。王族や称号持ちだけが大事にされてるせいでフジェみたいに地方の町は取り残されることが多い」

「その結果の助け合いか?」

「そうしないと生活してこれなかったといった方が正しいかもしれない」

それはそれでどうかと思うけど…


「…何か原因は何とも言えないけど、結果的にこんなあたたかい町になったならいいのかな?」

このあたたかさに救われている人は少なくはないはずだ

貧富の差はさほど開いていない

それなりにたくわえのある者はタマリのように周りを助けようとするからだ

最もそこに前までの領主は入ってなかったみたいだけど


スタンピードで傷ついた人たちも今では前向きに生きようとしている

領主の態度から遠巻きに見ていたことを後悔していると、本人に告げた人もいるのだとエメルが嬉しそうに言っていた

それは権力のある者の発言はよくも悪くも周りを巻き込むのだと改めて思った出来事だった


「原因がどうであれ…この町はこのままでいて欲しいな」

「そうだな」

肯定するロキにシュロも笑いながら頷いた

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