84.オナグルの処遇

84

皆が安堵の表情を浮かべながら部屋から出て行くと、ロキは私の事をきつく抱きしめた

「ロキ?」

「…」

ロキは何も言わず、動こうともしない

でも、抱きしめてくれるロキの腕が少し強張っていた

私はロキの腕から抜け出そうとするのをやめて、そのままもたれかかった


「…このまま」

「え?」

「お前を感じさせてくれ」

包み込むように抱きしめなおしたロキは、そのまま私の肩に顔を埋めるようにしてそう言った

ロキの不安が流れ込んでくる気がした


「ごめんね?」

背後からお腹に回された手にそっと触れると包み込むように握りしめられる

そのまま暫くロキは私を離そうとしなかった




目覚めてから2日後、ようやくロキが落ち着いて部屋を出ることが出来た

「あら、ようやく解放してもらえたの?」

2人でキッチンに入るとカメリアがそう尋ねて来る


「解放って…」

「ロキに離してもらえなかったんでしょう?」

何をいまさらとでも言うように続けられた言葉に羞恥心に襲われる


「ロキの独占欲も大概よね。まぁわからないでもないけど」

「…」

ロキは顔に手を当てたまま天を仰いだ


「ふふ…それで、カフェはいつから再開するの?」

「明日から」

「町のみんなも喜ぶわね」

そう言いながらサクサクと朝食の準備をしてくれる


「そうそう、タマリが落ち着いたら顔出してほしいって言ってたわよ」

「タマリが?じゃぁこの後行ってみようかな」

ロキを見ると頷いて返された


「オリビエ後はお願い」

「ん。わかったー」

頷くとカメリアはすぐに出て行った


「気を使われた?」

「かもな…とどうした?」

ロキが宙に向かって尋ねるとシャドウが手紙を渡し消えていく


「…」

受け取り中を確認したロキは何とも言えない顔をした


「どうしたの?」

「読めばわかる」

渡された手紙を読んで私も言葉を失った

そこにはオナグルの一時的な処遇が書かれていた

廃嫡され、鉱山に送られたらしい

しかも1日の採掘ノルマが決められていて、ノルマをこなすまで作業を終えることは出来ない

腕の傷に関しては現状を維持する魔術が施され、悪化することが無い反面、治癒することも痛みが軽減することもないという


「普通の男でも音を上げる過酷な作業を痛みを抱えたまま行うとか…えげつないことするよな」

鉱山の作業は危険な重労働でいつ命を落としてもおかしくないため、主に人の命に係わる罪を犯した男たちが送られる

その8割が盗賊やならず者で人の苦痛の顔を見ることに楽しみを見出す

スピードが遅いだろうオナグルがどのような目で見られるかは火を見るより明らかだった

王族至上主義で過ごしたオナグルにとったらこれ以上ない屈辱だろう


この世界では死刑は称号持ちにしか行われないという

自らの資産を取り上げられ死を迎えるということが何よりも怖れられているからだ

称号なしの最も重い刑が男性なら鉱山、女性なら死体洗いと毒を持つ魔物の解体となっている

いずれにしても死と隣り合わせの仕事だ

そして処刑を望む貴族と王族に関しては対象の一番望まぬ罰を与えることになる


「他の人はまだ決まってないんだよね?どうしてオナグルだけこんなに早く?」

「…」

ロキが何故か顔を反らした


「ロキ?」

伺う様に顔をのぞき込む


「…俺が怒り狂ったから、だろうな」

「え…?」

「お前が目を覚まさなければ嬲り殺しにする。そうシャドウを通じて伝えた」

ロキはバツが悪そうにそう言った


「えっと…」

私が目覚めなかったから?

そこまでロキが思ってくれてるってこと?

そんなの嬉しくないわけがなくて…


「…ありがとう?」

お礼を言うのが正解なのかすらわからないけど…


「オナグルの処遇は暫定的なものだ。この後さらに話し合って正式に決まるはずだから」

「変更も追加も…きっとあるんだろうねぇ…」

「少なくとも召喚された者でもあるお前のいるこの町を狙った首謀者だからな」

この世界で守るべき対象のいる町という事か

魔術師たちのおかげで復興済みだとしても、それは別の問題だろうしね

考えだしたらキリがないからそれ以上は結果を待つことにした

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