58-2

「ママこれ買って」

食事を終えた子供がケースの前で唐揚げを指さしている


「もう食べれないでしょう?」

「持って帰って夜ご飯でパパと食べる」

「でも…」

自分ではなく父親とと言われると断りづらいのだろう

それでも何度も懇願されると無理だったらしい


「…わかったわ。じゃぁこれ、テイクアウトでお願い」

母親は観念したようにそう言った


「かしこまりました。夕飯時でしたら細かく切ってサラダに混ぜてみてください。冷めてからでも違った感じでおいしく召し上がれますよ」

「まぁ…そんな食べ方が…それなら夜でも大丈夫そうね。ありがとう」

ホッとしたように笑って母子は出て行った


「何で分かったんだ?」

「何となく?」

「なんだそれ」

「ん…温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちにが一番おいしいからかな」

「あぁ、それは分かるな」

そう頷くロキの手元には本屋でもらった本がある


薬草や園芸関係の本はジョンやオリゴン達も大歓迎だった

文字が分からなくても図がたくさん入っているので何とかなるらしい


数冊入っていた絵本はカクテュスの文字を学ぶには丁度いいとウーたちも読んでいる

この町は話すことは出来ても読み書きが出来る者は少ないのだ

でも騎士たちの中には4国すべてとは言わなくても、自国と別の国の言葉を、話すだけでなく読み書きも出来る者は多いという

この町に来た騎士は特に国境の検問に関わっていたこともあって、ソンシティヴュの言葉を自由に操れるものも多いそうだ


「すみません」

「はーい」

かけられた声に入り口を見ると不安そうに立っている4人連れがいた


「あの、この手紙を検問で受け取ったのですが…」

「あ、騎士さんのご家族?」

「はい…」

「どうぞ中へ」

テーブル席へ案内するとコーヒーを2つとジュースを2つ準備する

それを皿に盛ったクッキーと共に出した


「お疲れでしょう?こちらへは先ほど?」

「ええ。ついさっき。嫁は生まれたばかりの孫と家で休んでおります。嫁の両親と妹が付き添いで」

「そうですか。それなら安心ですね」

微笑んで言うとホッとした表情をされた


「実は私も1年ほど前にこの町に来たばかりなんですよ。なのでお力になれればと」

「ありがとうございます。こっちには知り合いもいないので…」

「この町の人は暖かい人が多いのですぐ馴染めると思いますよ。同じようにあと3人の騎士さんのご家族も数日中に来られるそうですから、お互いの不安も理解し合えるでしょうし…」

「あぁ…それは嬉しいわ」

ご婦人がホッとしたように笑う


「お子さんたちはおいくつ?」

「僕はトマス。12才」

「俺はマシモ。14才です」

「トマスにマシモ、よろしくね。私はオリビエ、こっちはロキよ。ロキ、みんなを呼んでくれる?」

「ああ」

ロキは頷いて出て行った

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