57-2

「ここにあるのは全部譲ってくれたんだよ。だから売るわけにもいかないからどうしたものかと思ってな」

「魔術に騎士の訓練法…」

「薬草辞典もあるわ。これはオリゴン達が喜びそうね」

「お前たちが読むなら持って行ってくれ」

「いいの?」

「ああ。だがまた持ってこられたらどうしたものかと思ってな」

おじさんは唸っている


「だったら買い取れば?」

「買い取る?」

「そ。もらったものを売るのは気が引けても、買い取れば別でしょ?安く買って高く売る、商売の鉄則よ?」

「なるほどなぁ…」

「新しいのと買い取ったのは別の棚にしておけば同じ本で値段が違っても説明しやすいでしょ?」

「そりゃぁいいな。もう読まない本のやり場に困ってる話もよく聞くから丁度いいかもしれん。本は読んでもらってなんぼだからな。それに値が下がるなら手に取りやすくなるしな」

あくまで娯楽の商品だ

生活に厳しい現状ではどうしても特別な日に買う人が多い

でも新品でなくても安く手に入るなら、ウーのようにこれまで我慢してた人が手を出しやすくなるはずだ


「俺も売るかな。大量にある」

「お前さん達のは後回しでいいか?俺が破産しそうだ」

「はは…違いねぇ」

「とりあえずそっちのはもってってくれ。それにしても本の移動をどうするかだな…」

「ギルドに依頼を出したら?」

「おう、その手があるな。明日さっそく行ってみよう」

おじさんは今後のたくらみを考えるのに夢中でもうこっちの存在は忘れているようだ

私たちは本をインベントリにしまって店を出た


「しばらく本には困らないね」

「ああ。中々面白そうなものが入ってるしな」

読書好きな私たちにとっては思いがけないプレゼントだった


「オリビエ!」

屋台で食べ歩きしているとローズに呼び止められる

「何でお前までいるんだよ?」

屋台の前にいるマロニエにロキは嫌そうな顔をする


「お前と一緒。ローズの護衛と手伝いって言い訳を武器に側にいるだけだよ」

「チッ…」

ロキが舌打ちをしているのを初めて見た

「クスクス…ロキはオリビエに激アマだもんね」

ローズが笑いながら言う


「マロニエも大概だろ。王都の女達が見たら泣くぞ?」

「…やっぱりマロニエってモテてた?」

「ん?モテてはいたな。片っ端から断わってたけどな」

不安そうな顔をしたローズにロキはフォローを兼ねてそう言った

マロニエをからかいたいがローズを傷つけたいわけではないのだろう


「まぁ根っからの真面目人間だ。大事にしてもらえ」

そう言われたローズは頬を赤らめたまま嬉しそうに頷いた


「あ、ローズ、明日もカフェ開けるから」

「本当?みんなにも言っとくね」

「よろしくー」

2人と別れて再び屋台を回る


「やっぱ騎士多いね」

「まぁ当分は単身になるやつも多いだろうから屋台は便利かもしれないな」

「カフェにも来てくれるといいなぁ。きっとスイーツよりランチだから売上アップ」

「…そういうやつだよな」

呆れたように頷かれてしまった


「いっそ肉メインかサイドメニュー追加すれば?」

「サイドメニュー!」

思わずロキの腕をたたく

「何だよ?」

「それいい。ありがとうロキ」

ロキは興奮気味に言う私に苦笑していた

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