39-2
「たしかに何でしびれるだけの魔物が中級の26層にいるんだろうとは思ってたけど…」
うん。ボールと一緒だわ
「あまり知られてないから滅多に出回らない。痛い思いした元は取れるんじゃないか?」
「いや、でもこれを吸いだしたのはあんたの魔道具だ」
「気にすんな。それより何でここに?冒険者ではないよな?」
身なりからして違う
どうやってこの階層にたどり着けたのかさえ疑問を持ってしまう
「俺たちは薬師なんだ。ここは珍しい薬草が沢山あるから薬師にとっては最高の階層で…」
「だから一度だけ高ランクのパーティーにこの階まで同行してもらったんだ」
「この階層の魔物はしびれるだけの植物と眠くなるだけの植物しか出ないって聞いてたし、実際これまで何回も来たけど今回みたいのは初めてで…」
「なるほど…26階にしか用がないからそれで充分だったのね?」
25階のボスは攻略済み
そのフロアまで転移して26階層に来る
帰りは来た時と同じ25階層から転移するのだろう
「ああ。でもこんなことが起こるならもう来れそうにない。今度からはギルドに採取依頼を出すよ」
「何で最初からそうしなかったんだ?」
「冒険者に頼む時に採取方法まで指示出すことは出来ないし、珍しい薬草になると依頼料が払えない。でもこの卵を売れるなら当分は問題なさそうだ」
そうは言うものの諦めきれない顔である
「…お前らこれ、育てる気ある?」
ロキが突然そう尋ねた
「育てる?」
「こいつが苗ごと持って帰って増やしたがってる。でもその手の知識を持つ人間が周りにいない」
「…増やすことはできるが俺たちは宿を借りてるから畑は持ってないしそのための場所がない」
「それは問題ない。だろ?」
ロキはここにきて初めて私に話を振ってきた
「ええ。うちの敷地に畑を作ってもらえればそれでいいわ。住む場所も必要なら提供します。もちろん食事つきで」
「それは…」
「住み込みの従業員として来ていただいてもいいですよ?もしくは食事と部屋を提供する代わりに薬草を育ててもらうか、ですね」
「育てるのに失敗したら?」
「その時はその時で私たちでまたここに苗を取りに来ます。今日ここで採取された分は空いた場所でご自身の分として育ててもらってもいいですよ?もちろん採取しに来るときに同行してもらってもいいですし」
「…それは自分たちの分は好きに加工して売ってもいいということか?」
恐る恐る尋ねるその顔には不安と希望が入り混じっているように見える
「勿論です」
「だったら…食事と部屋を頼みたい。その分しっかり世話させてもらう」
「俺も…!」
「わかりました。お願いしますね。私はオリビエ・グラヨールと言います」
「俺はクロキュス・トゥルネソル」
「オリゴン・チュべルーズ。流れの薬師だ。こいつは息子のブラシュ、成人したての薬師見習だ」
「よろしくお願いします」
さっきまでオロオロしていたブラシュは大きな声でそう言った
「じゃぁあと2時間ほどここで採取して屋敷に戻りましょう」
「あんたらは自分の分を採取すればいい。俺達にはインベントリがあるから荷物のことは気にするな」
「すごいや…苗で持って帰れるなら色んなことが試せるよ」
ブラシュが嬉しそうに言う
「オリゴン、どの苗でも大丈夫なの?」
「大抵は問題ない。でも…こんな風になってるのはやめた方がいい」
オリゴンは生え際が少し変色してるのを見せながら説明してくれる
「なるほど…」
私は自分の周辺にある苗の生え際を見ていく
変色していないのは意外と少ないようだ
その時小さな鮮やかな蝶がこちらに向かって飛んでくるのが見えた
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