28-3

「じゃぁそれで契約しましょう。こちらが詳細を書いた契約書です」

「こんなものまで…」

「細かいことを色々書いてるので、持ち帰ってじっくり読んでからサインしていただければ結構です」

そう言いながら皆に契約書を配る


「お持ちいただくのは最初に商品を持ち込まれるときで構いません。ただし水の日は定休日になっているのでそこだけ注意してください」

「私が風の日だから丁度良かったわね」

イリスが言う


「そうね。クッキーは日持ちするし」

アマリリスの言う通りケーキが風の日だったらアマリリスの売れ残りを回すという旨味は激減してしまう


「さっき試作品の話が出てましたけど…」

「ええ」

「例えばですけど…デコレーションだけを変えてみるって言うのも有ですか?」

「勿論構いませんよ。今のケースの中にもそういうのが並んでますから。イチゴかサクランボかみたいな感じ」

確かにあったと5人は頷いている


「さっき言ってたオリビエさんの旨味っていうのを聞いてもいいですか?」

「ふふ…やっぱり気になりますよね」

笑いながら言うと5人ともが深く頷く

まぁ隠すほどでもないからいいんだけどね


「アイデアを広げたいからですよ」

「アイデアを広げる?」

「所詮自分の中のアイデアには限りがあるでしょう?でも人の作ったものを見て新しいものが浮かんだり、そこから連想したり…そういう刺激を貰えると思っています」

「なるほど…確かにそれはあるかもしれませんね」

「私としては店に置いてもらうだけでそれが可能になるので、プラスしかないということですね。むしろ自分が用意する量を減らせるので」

最後は冗談ぽくそう言うとみんなが笑い出す


「お互い刺激し合ってスイーツが広まれば、それは素敵なことだと思いませんか?」

「それは…すごく思います」

「あなたたちが屋台で売っているという案内のカードのようなものがあれば、購入された方にお渡しすることも出来ますよ」

「それって逆もいいですか?」

「逆?」

「屋台で売ってると昨日売ってた物が欲しいって言われることもあるんです。その時にここに置いてるって誘導するのもいいのかなって」

「それいいわ。私も時々聞かれるのよね」

「確かに。おいしいって聞いたけど自分の休みと合わないから買えないって残念がる人も…」

口々に飛び出す言葉には商売に関するヒントが沢山含まれている

彼女たちはそういう話ができたとしても売る手段はなかったのだろう


「こちらへの誘導は私も助かります。屋台でスイーツを出してることを知らない方もおられますから、ここの定休日の誘導も出来ますね」

「彼女らのが気に入ったならここに来るより屋台の方が近い人もいるだろうしな」

ロキがぼそっと言った

相変わらずいいことを言ってくれるものだと思う


この屋敷は町の端に立っているため屋台からは結構距離があるのだ

若い人には問題なくても年配の人には少し大変かもしれない

そういう意味では誘導し合うのはお互いにとっていいことになるのだろう


「実際に進めながら案があればこうして出し合っていきましょう」

「そうですね。きっとやりながら疑問も出てくるでしょうから」

「問題が出てきたらその時々で話し合って調整することも出来ますし…お互いにとっていい契約になるのが一番ですからね」

そう締めくくって今日の話し合いを終えた

翌朝アカシアが全員の契約書と屋台の売れ残りを持ってやってきて、委託販売と名付けたその契約がスタートした

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