19-2

「ではこの書類にサインを」

「…わかったわよ!サインくらいいくらでもするわ」

ソラセナはヤケクソのようにそう言いながらサインする

特に読みもせずにサインをする姿に、側近は呆れた目を向けオナグルはニヤリと笑う


その書類の最後にはこう書かれていた


++++++


上記の条件を破った場合、公式の行事以外で部屋から出ることを禁ずる

教師全員の合格を得た後、王族の義務として子が出来るまでは週に1度閨を共にするが、子が2人できればその義務は果たされたとみなす

生まれた子とはオナグルの認めた者が同席しない限り会うことを禁ずる

万が一、半年以内に教師の合格が得れなかった場合、正妃は病気で伏していると発表し、側妃を娶るとともに公式の場には側妃と出席する

同時に正妃としての権限を全てはく奪の上幽閉の身とする

またその際、子が2人出来ていない場合、その義務は側妃に移譲される


++++++


名ばかりの正妃となるのかそれともただ落ちていくのか…

オナグルは自分にとって都合のいいその書類に自らもサインし側近に渡した

「それを複写した上で原本を父上に」

「承知しました」

側近の一人がそのまま部屋を出て行った


「ソラセナを正妃の部屋へ。教師には婚姻の義でソラセナが失態を犯す事の無いよう改めて申し付けろ」

「承知しました」

「ソラセナ、婚儀までは6日しかない。せめて婚儀で恥をかかない程度の礼節は身につけろ。そなたがやらかした場合恥をかくのは王族だけでなくそなたの一族もだということを忘れるな」

「…分かりました」

「あぁ、後…王宮のメイドや護衛にそなたの家と同じ扱いをすることは禁ずる」

「どういう…意味でしょうか?」

「オーティ家の使用人は随分入れ替わりが激しいらしい。一部の者は暴力により日常生活さえ不自由する体にされていると報告があった」

それは少し前に上がってきた報告の内容だった

身体が不自由になる、精神を病む

そんなことが頻繁に起こるなど異常でしかない

気分次第で側近たちに当たり散らしていたオナグルは完全に自分の事は棚上げしているのだが…


「そなたから彼らへの暴力や暴言は、王族に対するそれと同等の罰を与える」

「同等の罰…」

「軽くて鞭打ち、重ければ処刑。正妃となった者を下らん理由で処刑することにならなければよいがな」

オナグルはそう言ってソラセナを置いて部屋を出た


実際に目にし、こちらの調べた情報に誤りがあるのなら、それなりの敬意を持ち、王に言ったように接するつもりではあったのだ

でも会った瞬間から、王族を前に聞かれてもいないのに自ら名乗るという失態を犯した

それはこの国では不敬に当たると子供でも知っていることで、いずれ国母となる正妃が犯して許される失態ではない

その瞬間、調べたことが事実だった場合を想定した書類が日の目を見ることになったのだ


「お前あの貧相な体に欲情できるか?」

「は?」

想定外の質問に側近は唖然とした


「あの胸、詰め物で持ち上げてるだけの作りものだ。左右の位置がおかしい」

「それは…」

「さらにくびれのない体。子をなすためとはいえあの体を相手にせねばならんとは…」

側近はある種の覚悟をせざるを得なかった

オナグルの機嫌は側近へのパワハラとモラハラに大きく影響している

そしてソラセナは日を追うごとに王宮で醜態をさらすことになる

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