第28話

 夕顔君に応援してるね、って言われたから頑張ったけれど少しだけ悔しい思いをしている。


 それは、バレーを真面目にしたせいで、夕顔君のサッカーでの活躍があんまり見れなかったからだ。


 そんなイライラした晴らしようがない思いをボールに乗せて思いっきりスパイクをする。

 

 でも、頑張っている夕顔君凄く格好良かったなぁ。最高だった。


 だけれど、夕顔君は頑張っていたのにどうやら負けてしまったらしい。


 ひどいよね?そんな奴ら許せるわけがないよね?


 夕顔君を負かした気障なサッカー部の野郎の事はあとで、後悔させてあげることにして私は決勝相手の顔を見る。


 あの夕顔君の義理の妹である夕顔花蓮だ。


 正直、なんであんな奴が夕顔君の妹なのか分からない。


 私だったら良かったのに。


 そう思い睨みつけているとあいつは私の事なんて気にした様子もなくただ一点をじっと見ていた。


 そちらの方へと顔を向けると、夕顔君が体育館に来ていた。


 もしかして、私の事を応援してくれるのかな?


 そう僅かな期待を込めて、じっと見ていると夕顔君が気付いたのか目を合わせてくれて、隣にいる男子に気づかれないようにそっと手を振って口パクで「が、ん、ば、っ、て」そう言われた気がする。


 ......これって、そういうことだよね?私、夕顔君と結婚するんだ。


「桜?もうすぐ試合始まるから行くよ?」

「……」

「桜?」


 うるさいなぁ、本当に。


 私と夕顔君の幸せな家庭を思い浮かべていたところなのに。


 さて、夕顔君に応援された私は百人力である。


 あの透かしたくそ猫を懲らしめてやるとしますか。


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「花蓮が優勝したらなんでもしてあげるよ」


 その言葉が私の頭の中で今日一日中ずっと反芻されている。


 その言葉はまるで麻薬だった。

 

 頭がおかしくなりそうなくらいだ。今なら何でもできるだろう。


 ご褒美、なんて良い響きなんだろう。最高。


 私は順当に勝ち続け、次は決勝である。多少卑劣な手は使いましたが審判にバレていなければ何も問題なんてありませんから。


 そして、次は決勝です。


 相手はあの女のクラスのようですけれど、正直どうでも良いです。私は目の前にニンジンを垂らされた馬です。


 正直、負ける気がしません。


「はぁ、兄さん。私の兄さん」


 思わず小さく呻いてしまいます。


「少しだけ待っていてください」


 残念ながら、先ほど兄さんのクラスは負けてしまったようです。まぁ、その勝ったクラスには兄さんに勝った相応のご褒美ばつを後々与えるとして、今は目の前の事に集中しましょうか。


 そう思い、目線を前に向けようとしたところ、視界の端に兄さんの顔が見える。


 私は、兄さん以外の男が人ではなく見えてしまう生き物なので、兄さんを探すのは凄く速いのです。


「あぁ、兄さん。ちゃんとご褒美くださいね」


 私はそっと呟く。


 じぃっと見つめていると、兄さんは私に気づいてそっと手を振ってくれる。


 そして、口パクで「が、ん、ば、っ、て」そう言われました。


 これは、相手を本当に叩き潰さなければなりませんね。


 そして、兄さんに勝利を献上して私はご褒美をもらうのです。


 待っていてください、兄さん。

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