第19話

「あ、あのね、夕顔君」

「な、なにかな?」

「こ、このままでもいいかな?」

「う、うん」


 僕の手をそっと握ったままそんなことを聞いてくる。


 桜木さんの顔は真っ赤で、今にも逃げ出してしまいそうな程だった。そんな影響なのか、僕も顔が真っ赤になっていると自覚できるほどだ。


 そのまま僕たちは少しだけお互いの顔を見つめ、互いに逸らす。まるで付き合っているかのような行動をしてしまう。


「じゃ、じゃあ。行こうか」

「うん」


 二人で映画館を出て、そのまま少し歩く。


「あ、あのね。夕顔君」

「何?」

「この後一緒に洋服みていかない?夕顔君に選んでほしくて」

「そうなんだ」

「……うん」


 こくりと、恥ずかしそうに、だが嬉しそうに頷く。


 二人で、肩が触れない程度の距離で、だが手は繋いだまま女子高生の中で人気な某ブランド店に入る。


 なんだか、こういうところあんまり来ないから緊張するな。たまに、花蓮の付き添いで来ることがあるくらい。


「あ、夕顔君。少し、あっちの方見に行こう」

「あ、うん」


 彼女に連れられるまま、二人で店内を回る。


「夕顔君、このワンピースとこっちのワンピースどっちがいい?」

「えぇーっと、こっちの方が僕は好きかな」

「分かった、これにするね」

「え、あ、いいの?本当にそれで」


 僕の言ったものをあっさりと承諾して、買おうとするのでびっくりする。


 女の子ってこういうのに悩むものなんじゃないのか?男の意見何てあんまり当てにならないと思うんだけれど。


 思えば、花蓮もそうだ。


 花蓮は、いつも僕が選んだ洋服を買う。


 理由を聞いても


「兄さんが、こっちの方がいいと思ったんですよね?私に似合うと思ったんですよね?なら、それを買うのは普通じゃないですか?」


 こういわれてしまう。


 そして、桜木さんは……


「なに、当り前の事言っているの?言いに決まってるよ。せっかく、選んでくれたんだから、これを買うよ」

「そ、そうですか」


 やっぱり、これが普通なんだろうか。


 その後も僕が選んだものを手に取って、レジで会計を済ませてくる。


「いいお買い物ができたよ」

「それなら、良かったです」

「それじゃあ、次、夕顔君に食べて欲しいパンケーキがあるの」

「そうなんですか?」

「うん、そのカフェすごく雰囲気良くて。あ、もちろん、私がお金は出すよ?だって、お礼なんだもん」

「いや、そんな悪いよ。今でも、十分楽しくてお礼になってるのに」

「ゆ、夕顔君が楽しめているのなら良かった」


 また、甘酸っぱい空気が流れる前に、彼女の手を取り、前に進む。


 彼女は驚いきはしたが、離さず逆に強く握ってくる。


 僕は、それに恥ずかしさを覚えると同時に嬉しさが.............


 ぞくぞくぞくっと、背中に冷や水を浴びせられる感覚がある。


 な、なんだ?


 後ろを振り向くけれど、誰もいない。


 気のせいか?


 





 

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