第12話 記憶が…
俺は手足の無いルックの首を掴んだまま、魔王マーデルリアの前に来た。
「何というか…魔王の城の中にしては、ファンシーな部屋だな?」
今迄の魔王城の王の間では、おどろおどろしい雰囲気の物や髑髏などで装飾されたものが多かったが…マーデルリアの場所は、ピンクの壁紙に柱には幾つものぬいぐるみが飾られて居て、何というか緊張感を無くす部屋だった。
「貴方は…サクヤ様⁉︎」
「久しぶりだな、魔王マーデルリア! 今日はお前に聞きたい事があるのだが…その前に、ほれ土産だ!」
俺は手足の無いルックを放り投げた。
マーデルリアはまたもルックの無残な姿を見て震えていた。
…というか、コイツが本当に世界を征服しようと企む魔王なのだろうか?
すると、マーデルリアの側にいた巨大な熊のぬいぐるみがこちらに向かって来た。
「サクヤ! 助けてくれ‼︎」
「あ? 誰だテメェは?」
コイツの声には聞き覚えがあるが…?
だが…魔王城で俺の事を呼び捨てに出来る奴って居たっけか?
「誰だかしらねぇが、馴れ馴れしいぞ!」
「俺は…マサギだ!」
「はぁ? マサギはクマのぬいぐるみではないぞ?」
「魔王の力で変身させられているんだ! 元の姿に戻してくれないか?」
「元の姿に戻ったら、今度は俺がお前を殺す事になるが…良いんだな?」
「う………」
コイツとの話は今はどうでも良い。
俺はクマのぬいぐるみのマサギに蹴りを飛ばすと、遠くに吹っ飛んで行った。
魔王マーデルリアは、吹っ飛んだマサギを見て妙な悲鳴を上げた。
「俺はお前に聞きたい事がある…」
「はい、何でしょうサクヤ様?」
「お前の背後…真の魔王は何処にいる?」
「質問の意図が読めません。 私が真魔王のマーデルリアですが?」
「では、質問を変えて…お前が魔王の座に就く前の前任者は誰だ?」
「それは私のお父様…あれ?」
マーデルリアは必死に考え込んでいる。
惚けている…という感じではない。
「お前は魔界樹から生まれたんだよな?」
「はい…そうです。」
「ならその魔界樹というのは何処にある? 魔界か? それとも…魔王城か?」
「魔界樹なら………」
マーデルリアは急に下を向いてから黙った。
まるで電源をオフにされた人形みたく…
俺はマーデルリアの顎を上げてから目を開けて見せた。
だが、反応が無かった。
俺はマーデルリアのドレスに手をかけてから一気に引き裂いた。
そこには女性の裸体…ではなく、各所に関節が見える人形だった。
「ま…マーデルリア様?」
「見たかレッサー…これが魔王マーデルリアの正体だ。」
「これは…人形ですか?」
「更に心臓部分にあるこの魔石に魔力を送り込む仕掛けになっている。 なので、こうすると…」
マーデルリアの人形の魔石を引っ張り出してから、魔力糸を力いっぱいに引っ張ると…奥から誰かが倒れた音がした。
そして更に引っ張っていくと、奥から角の生えた小さな子供が引っ張られて来た。
「これが真のマーデルリアか?」
「な…なぜ、わらわのことがわかったぁ!」
「お前のキャラが一定じゃなかったからな。 私なのか我なのか…ちゃんと一人称くらい決めておけ!」
「まさか…この方がマーデルリア様だとは?」
「るっく…またこんなすがたに⁉」
マーデルリアは魔王覇気を放った。
この人形から感じた魔王覇気よりは強い気がするが…それでも、過去の6度の魔王達に比べると遥かに弱い。
恐らくだが、これも本体ではないのだろう。
やはり…本体は魔界樹か?
「俺は…いや、待てよ? 何故…俺は魔界樹を真の魔王と認識した? 確か元いた世界ではマーデルリアが魔王と思っていた筈? それがこの世界に来てから…?」
この世界で別なアップデートが始まっていたんだ。
セルリアに良く似たルリアという女…
三人の急成長?
たかが半年でFランクからDランクまでアイツらが上がるか?
そして…マーデルリアが真の魔王と思えなくなった点。
なんなんだ…?
何かがおかしいぞ⁉
「おい、おまえ…わらわをむしするな!」
「うるせぇ、ガキ‼ 考え中なんだ、少し黙っていろ‼」
俺は怒りで覇気を暴発させた。
マーデルリアは俺の覇気で呼吸が出来なくなっていた。
俺は試しに聖剣を手に取ってから…マーデルリアの心臓目掛けて突き刺した。
ルックは嘆いていたが…マーデルリアは、体が溶けて液状になると奥の方に消えて行った。
「やはり…あれも本体では無かったか!」
「そんな…ではボクのお仕えしていたマーデルリア様は一体⁉」
「まさかとは思うが…?」
俺は床に聖剣を突き刺した。
すると、魔王城が凄まじい勢いで震えだした。
まるで…大震災クラスの地震の様に。
「なんだ、この揺れは⁉」
「おい、ルックといったな? お前に選択権をやる…このまま魔王城に取り込まれるか? 俺と共に逃げるかだ!」
「どういう事なんだ?」
「お前は操られていたんだ! この魔王城が魔王マーデルリアだったんだ。 そして…魔界樹の本体でもある。」
「そ…そんな! ではボクは居もしない方にお仕えしていたのか⁉」
「早くしろ! このままだと…魔王城に取り込まれるぞ‼」
「ボクの事は…置いていけ! こんな姿ではもう…」
「そうか、なら魔王城の…魔界樹の養分になれ!」
俺は城の出口を目指して走っていると、横にマサギのぬいぐるみが走っていた。
「サクヤ! 僕は助けてくれるよな?」
「え、なんで?」
「え? 僕達は友達だろ?」
「お前…何で自分が殺されたのか覚えてないのか?」
「その辺は全然…」
「ただ、助けるにしても…その姿で助けても、地上に出たらモンスターかと思われて狩られるぞ?」
「なら、どうしたら良い?」
「この城の宝物庫に元の姿に戻る魔鏡という鏡があるらしい。 それに姿を映せば元に戻るという話だ。」
「そうか! なら探して来る!」
そういってマサギは…ありもしない鏡を求めて彷徨う事になる。
俺はマサギを全く許したつもりはないので、当然の処置だろう。
そして俺は魔王城から飛び出すと、空間を切り裂いて地上に降り立った。
俺は周囲を見渡すと…フレイラッツの街が見える場所の草原に居たのだった。
更に…魔王城が巨大な樹も地上に落ちて来た…が?
「あれが魔界樹…? いや、あの樹は何処かで見た事あるな? そうだ、デヴァルダムツリーだ‼」
確か…どの世界だったか?
破壊神を生み出したのがあの樹だった記憶があるが…確か消滅させる前に逃したんだったな。
まるで歪な世界樹の様な姿をした樹は、空に向かって枝を伸ばし始めた。
更に枝の穴から闇の煙を吐いて空を覆っている。
そして無数に伸ばした枝に実がなると、次々と実から魔物や魔獣が生まれて来たのだった。
「ちょっと待て…どれだけ増えるんだ?」
今現在で確認出来る数は…およそ5万はいる。
そしてまだ増え続けている。
「おいおい、マジかよ…こんな大軍戦なんか、過去の世界でもなかったぞ‼」
これが…最終決戦か!
今回の旅は短くて済んだが、最後はこれか!
「さてと、全てを終わらせて…クライマックスと行こうか‼」
これで全てが終わる…筈?
これを倒して元の世界に戻ったら…また他の異世界召喚とかねぇだろうな?
これまで7度あったからな…可能性は無くも無いのか?
それよりもまず、これを何とかするか!
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