ルミのプチ家出(全4回)

黒っぽい猫

第1話 来客


春休みに入って朝寝するようになった。


今までは毎日6時ちょうどに起きていたのだが、起きるのがもったいないようなキモチになってしまって、目が覚めてもしばらく布団の中でうとうとするようになったのだ。


夜更かしをするようになったせいもある。しかし体内時計は変わらないようで、前日の夜、深夜の2時を過ぎていても翌日は6時5分前に目覚めた。それから2時間以上夢うつつに過ごすのがとてもキモチいいのだった。



その日、朝8時を過ぎても布団の中でうとうとしていると、玄関のほうで誰かが話す声が聞こえてきた。トーンが高い母の声がする。来客があったようだ。誰だろうこんな早くに。


「あら、まあ、ルミちゃん。どうしたの? こんな早くに」


母の明るい声がよく響く。


「あれ? イトコのルミなのか?」


私はぼんやりした頭でルミの巻き毛を思い出していた。


小学生の頃のルミは、明るい茶色の長い巻き毛をツインテールにしていた。クルクル動く茶色の大きな瞳。長いまつげ。赤くてツヤがある薄い唇。白い肌。絵に描いたように美しい少女だった。中学生の今はポニテにしてることが多い。


「失礼しまーす」


明るく元気な声で挨拶する声が聞こえてきた。ルミに間違いない。母に「まだ寝てるから部屋へ行ってみれば?」と言われたらしく、階段をトントントンと上がってきている。髪がモシャモシャだが、相手がルミなら、まあいいや。私は思った。


私を起こしたくなかったのだろう。そっと音を立てないようにドアを開けてルミが入って来た。私は目が覚めていたが、突然起きてルミを驚かせてやろうと狸寝入りをしていた。しかしお茶目なルミのほうが一枚上手だった。そっと部屋に入ってリュックを下ろすと、突然、私の布団をひっペがして抱きついてきた。私は先手を取られて叫んでしまった。


私:「キャッ! ルミ! 突然ナニよ!」

ルミ:「エヘ。わかってたくせにー?」


ルミがいきなり私のホッペにキスしてきた。


それから一旦はがした掛け布団を頭からかぶって、私とルミは布団の中でもみあった。もみあった? そうなのだ。ルミは私の体に抱きついて容赦なく触ってきたのだ。


私:「ちょ、ちょっと。ルミ! ドコ、さわってるのよー!」

ルミ:「いいじゃない? わたしとミユのカンケーなんだしい~」


ルミが私のパジャマの中に手を入れてきた。

ルミは2つ年上の私を「ミユ」と呼ぶ。


私:「わ、わ、わ。 何すんの? 冷たーい!」


ルミ:「ミユのバスト、あったかくてポヨポヨ。うっとりしちゃう。」


ルミが私のバストをモミモミし始めた。いくらルミでもそれはやりすぎ!


私:「ルミ! いくらなんでも、やりすぎでしょ? ちょっとは礼儀を・・・」


わきまえなさい。と言うつもりだったのだが言葉が途切れた。


ルミ:「ミユ。お願い。このままここで寝かせて」


ルミがちょっと切なげな声で言った。


私は心配になって胸に顔をうずめたままのミユをそのままにしてそっと頭を撫でた。


私:「なにかあったの? ルミ」


ルミは何も言わないが、胸のあたりに熱いものを感じる。ルミは私の胸に顔をうずめて泣いていたのだった。ルミは黙って涙を流しているらしい。私は何か言おうとしたが、しばらくこのまま抱きしめてあげることにした。



しばらくして布団から顔を出したルミは私の唇に自分の唇を押し付けてきた。強引なキス。まだハミガキをしてない私は、自分の口臭がするのではないかとちょっと気になった。ルミはそんなことは気にならないようで、しばらくそのままじっと唇を合わせていた。


気がすんだのか、ルミが唇を離し、私の目をじっと見つめた。


ルミ:「ミユ。ごめんね。突然きちゃって」目が充血して顔が涙で濡れていた。

私:「いいけど。何かあったの?」

ルミ:「何も聞かないで。ここにしばらく置いてくれる?」

私:「私はいいけど、ご両親は知ってるの?」

ルミ:「書置きしてきた。プチ家出。てへ」


ルミが舌を出して笑った。


ウチの母がルミの家に電話をかけるだろう。私はルミとなら全然かまわなかった。


私:「それにしたって、突然抱きついてキスなんて。びっくりしたじゃないの」

ルミ:「そう? わたしの唇を奪ったのはミユのほうじゃなかったっけ?」


ルミはまじめな顔で言った。


そうだった。去年のクリスマス。イルミネーションを二人で見に行ったときに、キラキラ光るLEDの光がルミの大きな瞳に映っているのがあまりにも可愛くて、私は思わずルミにキスしてしまったのだった。ルミはいつだってカワイイ。でもあの日のルミは特別だった。


ルミ:「あれがわたしのファーストキスだったんだよ?」


ルミが嬉しそうに笑った。


さっきまで泣いていたのがもう笑っている。何があったか知らないが、ルミはそういう子だった。人一倍感受性が強くて、すぐ泣くし、すぐ笑う。すぐふくれるけど、すぐ喜ぶ。ルミは容姿だけでなく、そういう感情の起伏がすぐに顔に出るところがカワイイのだ。



私が起きようとするとルミが私の肩にそっとふれて押しとどめた。


ルミ:「わたし、きのう寝てないの。このまま一緒に寝かせて」


疲れが顔に出ていた。


私:「そうなの? まあ、いいわ。一緒に寝よっか」


夜通し悩んでいたのかもしれない。


ルミは服を瞬く間に脱いで下着だけになって布団に入ってきた。


ポニテの髪もほどいた。


ルミ:「ミユの体ってふわふわしてて、あったかい。それにいい匂いがする」

私:「そう? あんまり触らないでよ。くすぐったいから」


実際巻き毛がくすぐったい。


ルミ:「くすぐったい?ウソ。感じてるんでしょ?」


ルミがいたずらっぽく笑った。


私:「ま、まあ、おんなじようなものよ」


ルミにそう言われるとちょっと恥ずかしい。


ルミ:「ごめん。このまま寝かせて」


ルミは横から足をからませて体をくっつけてきた。


それからルミは私の腕枕ですうすう寝息をたて始めた。ヤレヤレ。子守は疲れるな。



ルミが寝入ったのを確認して、私は腕枕をはずして枕を当ててやり、起きることにした。9時をとっくに過ぎていた。パジャマの胸がはだけてバストが見えている。恥ずかしい。パジャマの胸にしみたルミの涙はすでに乾いていたが、熱い涙の感覚だけは残っていた。


ルミに何があったのだろう?もっともこの子はすぐに感情を行動に出しちゃう子だから。たいしたことではないのかもしれない。ルミが自分から話すまで詮索はしないことにした。






つづく。

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