第286話 基礎の大切さ
「レイトは朝早く、庭に何しに来たの?」
「俺は外で声がしたから見に来ただけだ。というか、コルト……。お前、子供達に剣を教えているのかよ。獣人族に剣を覚えさせても使いこなせないって聞いた覚えがあるぜ。いや、剣が使えないんじゃなくて己の拳や蹴りで十分戦えるらしい。剣なんて物騒な品を持たせる必要なんてないんじゃないか?」
「僕から教えているんじゃないよ。この子達の方からおしえてほしいって頼まれているんだ。拳と剣、両方使えた方が、応用がきくし、二人の力になると思ってさ」
「まぁ、そうだけどよ。コルトの鍛錬をそのままさせるのは流石に酷だろ。俺は二度とやりたくないね。準備運動が準備運動じゃねえんだもんよ。あんな鍛錬を毎日続けさせてたら死ぬぞ」
「さすがに回数は変えてるよ。でも、パーズの方は体力がどんどんついてきたしエナも楽しんでやってる。無理やりやっている訳じゃないからさ、安心して」
「そうか。まぁ、コルトが無理やりやらせるとは思えないから信じるさ。じゃあ俺は起きたついでに家に帰るぜ」
「朝食はいいの?」
「そうか、朝食か……。食べていこうかな」
レイトは実家に向かおうとしていたが引き下がり、休憩所の椅子に座った。痩せていてもずうずうしいのは変わらないみたいだ。
レイトはテーブルに突っ伏して眠り始めた。部屋に戻ってベッドで寝ればいいのにと思ったがレイト自身で外にいると判断したのだから口を挟むのを止めた。
レイトが寝ている間も僕達は剣を振り、打ち合う。
体の効率的な動かし方は体格や武器で違う。その為、実戦練習によって自分の動きを見つけるとともに基礎の基礎を体に叩き込んでいく。
基礎が出来ていれば応用は出来る。僕はそう思っているので応用をするために鍛錬をしている。
パーズは完全に基礎を固めて着実に力を付けていくのが好きらしく、エナは応用をおこない、なぜできなかったのかという問題点を見つけながら基礎を学んで行くのが好きみたいだ。
学び方までそれぞれ違い、教育者の人たちは本当にすごいと感心してしまう。
僕は二人を教えるだけでも精一杯なのに、学園では三〇人や四○人もの生徒を教えなければいけないなんて……。眼が回りそうだ。
僕とエナ、パーズは鍛錬を二時間ほどで終えた。その後、レイトを起こして食堂に向かわせた。
汗だくになった僕達はお風呂に入り、汚れを流す。
体をさっと洗ったら、脱衣所に戻り、服を着る。服を着替えたあと食堂に向かい、皆で朝食にした。
ナロ君の作った料理を食べ、会話し、仲を深める。
レイトは一心不乱に食事をしていた。昨夜何も食べていなかったから、きっとお腹が空き過ぎていたのだろう。
朝食をたらふく食べ、レイトの体が元に戻った。一気に太りすぎだろと思ったが大量に食べたので仕方がないと勝手に受け入れる。
レイトは朝食の後すぐに家に帰ろうとする。きっと父親が心配なのだろう。村長はまだ帰ってきていない為、早く行っても仕方ないのだがなんやかんや言って心配なのだ。
レイトを送る為、僕はついていく。子供達は屋敷の掃除と食事の後片付けを行っており、少し時間があったのだ。
「レイト、森の中に魔物がいない訳じゃないから僕もついていくよ」
「そうか、じゃあよろしく頼む。森の中で魔物に襲われるなんてまっぴらごめんだ。出来れば虫にすら会いたくない」
僕とレイトは屋敷を出てレイトの実家に向かった。
レイトを送っている途中、森の中は平和だった。魔物の声などは一切せず、普通に歩いていられる。
警戒するのすら必要ないと思ったが油断は大敵であるため、確実に歩みをすすめる。
レイトだけなら守るのは簡単だし、逃げるのも容易だ。
実際、レイトだけでも魔物を倒そうと思えば倒せるくらいに強い。だが、レイトに根性がないため、戦おうとしたり、鍛錬したり、しないのだ。
魔法がせっかく使えるのだから、ちゃんと鍛錬すれば戦えるようになるはずなのに、レイトは必ず楽な方に逃げる。
自分の興味のある方向にしか進まない、変わった性格をしているのだ。
そんな性格を嫌う大人は多いが僕は嫌いじゃない。どっちかというと好きだ。
僕とレイトの性格は少し似ているので、何となく分かるが好きな物はとことん突き詰めたいという思いをはせている。だから、商人の勉強はちゃんとしているはずだ。
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