第238話 危険と平和の中間

「よし、もう一度屋敷に向うよ。皆、僕にちゃんと着いてきてね」


「ハーイ」×子供達


 僕達は掃除を行うために屋敷に向った。


 僕はブラシを持ち、子供達はスポンジやたわしを持っている。


 お風呂の中を綺麗にするためには手や雑巾だと限界があると感じたのだ。


 その為、汚れをこすり落とすための道具を持ってきた。


 僕達は屋敷に到着し、お風呂場に向う。


「じゃあ、皆はお風呂の中の壁をスポンジとたわしで擦って綺麗にしていってね。僕はブラシで底を綺麗にしていく。汚れが落ちたらお湯を桶に入れて汚れを流していこう」


 僕達は掃除を再開する。


 3時間後。


「ふぅー。お風呂の中は大分綺麗になったぞ。壁も床も全く壊れていない。さすが高級品だ。修繕する必要がないから、お湯を溜めれば今日にでも入れてしまえそうだな。でも、風呂場がまだ汚いから、掃除は続けないといけない。あと、排水溝も綺麗にしないとお湯が詰まってしまう。細かい藻が大量に床に落ちてるから、かき集めて捨てないと子供達が滑っちゃう……」


 僕は周りに注意しながら一つずつ着実に終わらせていく。


「あるじ~、エナ疲れた~。掃除、ばかりめんどう」


 エナは僕の足下にくっ付いてくる。


「まぁ、午前中と午後の半分くらい掃除したから今日はここまでにしようか。皆も疲れてるしあとは好きに遊んでもいいよ」


「ほんと! じゃあ外で遊んでもいい?」


 エナは耳と尻尾を立て、眼を輝かせる。


「うん、いいよ。いっぱい遊んできな。でも、僕とナロ君の目のとどくところだけだよ。それ以上言ったらデコピンだからね」


「うぅ~、あれ痛い」


 エナは額に手を置き、デコピンの痛さを思い出していた。


 僕達は屋敷の外にある広い庭にやってきた。


 庭というよりかはもう森なのだが、木がなくとても広々としている。


「じゃあ、何かあったら僕に言うんだよ」


「ハーイ」×子供達。


 僕は木陰に腰を下ろし、子供達が遊ぶ姿を見守っていた。


 ナロ君はハオに引っ張られ、遊びに参加させられている。


 だが、とても楽しそうなので呼び戻す必要はない。


「こうやって子供達が遊んでいるのを眺めているのってすごい平和だよな……。いつまでこんな平和が続くんだろうか。ずっと続いてほしいな」


 僕の生きている時代は危険と平和の中間あたりにいる。


 魔王が復活する前は間違いなく平和だった。


 アイクさんが魔王を倒し、訪れた平和な時は約七〇年。


 七〇年は人の歴史にとって、凄く長い。


 だが、この世界からしたら短い。


 子供達にとってはとても可哀そうな時代だ。


 魔王が復活し、どれだけの時間が経ったのか分からない。


 だが、魔王もすぐに攻めてくるわけではない。


 力をたくわえ、戦力を整える時間が必要なのだ。


 その時間が長ければ長いほど敵は強大になっていく。


「アイクさんの時は一〇年くらい、魔族との戦いが続いたんだよな。確か、アイクさんが一度戦いに行って魔王軍の戦力を大幅に削り、魔王のもとにまでたどり着いたけど負けてしまった。命からがら逃げてきて仲間を集め、長い時を掛けて何とか勝った。まぁ、戦力を削り合っていたから時間が掛かったんだと思うけど、一〇年もかかったのか。まぁ、アイクさんは勇者のスキルを持っていなかったって言われているし、時間が掛かっても倒したんだからすごいよな」


 エナ、マル、ハオはいつも通り、駆けまわって遊んでいた。


 パーズは僕の教えた足さばきを重点的に鍛錬している。


「ミルは、いつも通りか……」


「?」


 ミルは僕の傍で地面に文字を書いていた。


――皆の遊び方も大体決まって来たな。他の遊びを試してほしいけど、僕が言っても意味ないからな。こういうのは自分から動き出す意思が必要なんだ。僕は甘やかしすぎるから、気をつけないと。


「主様……、全部かけた……」


 ミルは平仮名を地面に全て書いていた。


「おぉ、凄いじゃん。よく書けたね。これで絵本が読めるよ」


「絵本……?」


「紙に絵が描いてあって、文字のお話が書ているんだ。実家に帰ったら見せてあげるよ」


「絵本、楽しみ……」


 ミルは眼を輝かせ、耳を立てていた。


 僕は全ての平仮名を掛けたミルの頭を撫でる。


「よしよし。ここまでよく頑張ったね。凄いよ、ミル」


「ふぅぃ……。主様になでなでされるの、好き……。ずっとされてたい……」


 ミルは僕に身を預けるようにくっ付いてくる。


「ずっとは出来ないけど、空いた時間は撫でてあげられるよ」


 ミルは僕の股に入ってきて、木陰になっている草むらにペタンと座る。


「もっと、いろんなところ撫でてほしい……」


 ミルは僕の方を向き、提案してきた。


「ほんと、ミルは撫でられるの好きだね、まぁ、撫でても減るものはないし時間はあるから、いいか」


 僕はミルの頭、顎、お腹、背中、などくすぐったくないのかと思うくらい繊細に撫でて行った。


 すると……。


「ふぅーー、ふぅーー、ふぅーー。もっと、もっと、もっと……。撫でてほしいのぉ……、主様に、いっぱい、いっぱい……、撫でてほしいのぉ……」


 ミルは僕の股にお尻を着けて、腰をくねり始める。


 体が震えており、どうも痙攣していた。


「あらら、撫ですぎると甘えん坊状態になっちゃうのか。やっぱりやり過ぎるのは駄目だな。適度にしないと子供たちの身が持たない。でも、甘えん坊状態を治すには撫でるのがいいなんて、ちょっとした矛盾だ……」

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